●COP21が示唆した日本自動車業界の行く末
今日は電気自動車(EV)をめぐる自動車業界について、少し感想を交えてお話ししたいと思います。私がこのテーマに最初に関心を持ったのは2015年の暮れだったのですが、当時ちょうどフランスでCOP21というCO2削減に関する大きな国際会議が行われていて、パリ協定がほぼ締結に近いという状況でした。
たまたまその時に都内のあるレストランで日本の大手自動車メーカーの幹部の方と食事をしたのですが、いきなり「伊藤さん、このCOP21というのは日本の自動車業界にどういう意味があるのか分かりますか」と振られたのです。今になってみれば、それに答えられなかったのは恥ずかしい話なのですが、ただその時点で私もあまり問題意識を持っていなかったものですから、さほど適切に反応しませんでした。
しかし、彼いわく「その取り決めに従うと、2050年までに現在に比べてCO2を80パーセント削減するというのが日本の相場感になる。おそらく2050年までに日本の自動車業界はまだこれから拡大して、仮に今の2倍程度の生産量で毎年やっていくと、1台当たり90パーセント削減しないとこの基準は実現できない。これは要するに内燃機関であるガソリンやディーゼルでは実現できない。ハイブリッドでも難しいだろう。したがって、新規に作る車のほとんどはEV。バッテリー型なのかあるいは水素燃料自動車なのか、一部バイオ燃料ということがあるかもしれないが、とにかくEVに行くだろう」ということでした。要するに、言い替えればガソリン車を作っている限り行き止まりなのだということを、そのトップの方は言っていたわけです。
●新技術に投資しないと企業は生き残れない
この話を聞いた時に大変なことなのだなと思いました。なぜかというと、当時日本の多くの産業界は、自動車に限らず投資に対して非常に消極的だったからです。特に国内投資は消極的でした。それは皆さんの相場感として、今は足下で景気は多少良くなっているかもしれないけれども、またいずれ低迷してくる。あるいは高齢化によって人口減少が進んでいくかもしれない、ということがあったからで、今あまり積極的に投資するのは得策ではないと考える人が多かったように思います。
ところが、今の自動車産業の話をすると、要するに投資をしない企業は生き残れないということを意味するのです。つまり、自動車の環境ががらりと変わることによって、EV対応をしない企業、ガソリン車を作り続けている企業は生き残れないという話だと思います。そういう意味で、自動車業界が生き残るためにどうやって環境に対応するのかということに関心を持ち始めているのです。
●英仏に押されて日本のタイムリミットも2040年に
しかし、現実の世の中はもっと動きが速くて、その少し後にイギリスとフランスが2040年までに全ての自動車を電気に替えるという発表をしました。この話を聞いた時に非常に面白いと思ったことがあります。それは、私の勝手な想像ですが、内燃機関の世界では圧倒的に日本とドイツの競争力があるため、そうした中、競争を有利に進めるためにはゲームのルールを変えるのが好ましいのではないかということです。そう考えてもおかしくはありません。
時あたかも環境問題が非常に話題になって、COP21で2050年までの方向性が出てきているのですから、それをさらにもっと速く進めて2040年までに自動車を全て電気に替えていくという発表をするというのは、言い方はおかしいかもしれませんが、オリンピックのスポーツで日本が有利になるとルールを変えられてしまうことのある柔道やスキーなどの世界と似たような話だなと感じたわけです。ただ、逆にいうと、日本にとってハードルが少し前に来たということで、私はなんとなく2050年までの話だと思っていたのですが、2040年を目指して動き始めたわけです。
●国家を挙げてEV生産を加速させる中国
こうした中、最も効果的に動いたのは中国だろうと思います。環境問題を前面に掲げて、EVの動きを一気に加速させることを、国家として打ち出したのです。考えて見たら、これは中国にとって絶好のチャンスであるわけです。それは、内燃機関の世界で競争しようとすると、ドイツや日本の企業とはなかなか競争できない中、EVという全く新しい技術においては、バッテリーの技術などモジュラー型でこれまでと違った作り方が可能だからです。
それに加えて、現在中国は自動車の一年間の販売台数がアメリカを抜いて第1位で、世界最大のマーケットなのです。そういう意味では、EVに大きくかじを切るということが、中国の自動車産業を育成するという点でも非常にいい条件であるわけです。さらに環境問題において、中国が先端を行くというメッセージを出すのは大変好ましいということで、中国でEVを中心とした...