10MTVオピニオン|有識者による1話10分のオンライン講義
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タイラー・コーエンが唱える経済成長「三つの要因」とは?

イノベーションと経済成長

曽根泰教
慶應義塾大学大学院教授(政策・メディア研究科)
情報・テキスト
『大停滞』(タイラー・コーエン著、若田部昌澄解説、 池村千秋翻訳、NTT出版)
イノベーションと経済成長が密接な関係にあるのは間違いないのだが、技術革新があれば経済成長につながると単純に語ることはできない。では、成長著しいインターネット分野を、イノベーションの観点からどう見るか? そこからさらに浮上する新たな問題とともに、曽根泰教氏が解説する。
時間:09:04
収録日:2014/07/14
追加日:2014/10/16
『大停滞』(タイラー・コーエン著、若田部昌澄解説、 池村千秋翻訳、NTT出版)
イノベーションと経済成長が密接な関係にあるのは間違いないのだが、技術革新があれば経済成長につながると単純に語ることはできない。では、成長著しいインターネット分野を、イノベーションの観点からどう見るか? そこからさらに浮上する新たな問題とともに、曽根泰教氏が解説する。
時間:09:04
収録日:2014/07/14
追加日:2014/10/16
≪全文≫

●日本のイノベーションのジレンマ 三つの理由


 まず、「イノベーションと経済成長」というお話をします。

 多くの人は、イノベーションが経済成長につながると思っているわけで、それはそれとして正しいわけですけれども、日本のイノベーションの議論をするときに、必ずぶつかる課題があります。それは、イノベーションのジレンマなのか、イノベーションのパラドックスなのか、ということです。

 これはクレイトン・クリステンセンが言う「イノベーションのジレンマ」とは違った意味で、一言で言うと、「技術で勝って、ビジネスで負ける」ということです。つまり、イノベーションとして日本は技術を持っている。だけれども、ビジネスとしては成り立たない。なぜなのか。

 これは、今日は詳細には議論しませんが、一つ目の理由としては、日本の企業はビジネスモデルとして発展させる力が弱いからではないか、ということが挙げられます。二番目は、過剰適用をする、ということです。つまり、顧客、あるいは市場への過剰適用、言ってみればガラパゴス化がそこで起こるわけですね。そして、三番目は、半端な国際化と言っていいでしょう。つまり、日本の市場規模がそこそこ大きいがために、日本国内で勝負するのか、海外に一気に出て行くのか、そこの決断が非常にしにくいのです。外国語を、例えば、英語だけで全部済ますということもできないし、だからと言って、日本語だけで勝負することもできない、という状況に陥ります。


●タイラー・コーエンの「経済成長三つの要因」でかつての日本の経済成長を考える


 こういうことがありますが、イノベーションと経済成長の関係を議論した面白い本があります。それは、タイラー・コーエンという人が書いた『大停滞』という本に出てくるのですが、アメリカの経済成長を三つの要因から分析しているのです。経済学者の本にしては非常に分かりやすいというか、少し単純化しすぎていますけれども。

 彼は、次のように述べています。経済成長というものは、容易に獲得できる果実である。それはどういうことを指しているのかというと、経済成長の要因の一つに、無償の土地があったということが挙げられる。アメリカの過去の経験から言えば、フロンティアはどんどん西に延びていきました。それは、無償の土地を目指して拡大していったわけです。二つ目の要因が、イノベーション、技術革新である。そして三つ目が、未教育の賢い子どもたち。この三つが重なることによって、アメリカは経済成長ができた、容易に獲得できる果実を手にすることができたという論旨で、非常に単純で分かりやすいわけですね。

 これを日本に当てはめますと、どういうことかというと、無償の土地の代わりに輸出市場がかつて東南アジア、ヨーロッパ、アメリカなどに拡大していきました。競合する相手もそれほどなく、貿易摩擦もそれほどないとするならば、収穫逓増、逓減ではなくて収穫逓増の法則が働くという青天井の世界だったわけです。しかし、これは今はもうありません。

 二つ目が、イノベーションというよりも敗戦後、設備投資をするときに、新しい設備をゼロからスタートすることができた、という点にあります。例えば、新鋭工場をつくったり、あるいは、生産性の高い最新鋭の機器を導入することができたということです。これが経済成長の原動力だったわけです。

 三番目の未教育の賢い子どもたちというのは、これも分かりやすい要因です。大量に中等教育、高等教育に人は進んだ。そして...
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