10MTVオピニオン|有識者による1話10分のオンライン講義
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市場経済と民主主義の矛盾が格差を生む

格差の固定化と教育問題

伊藤元重
東京大学名誉教授/学習院大学国際社会科学部教授
情報・テキスト
東京大学名誉教授で学習院大学国際社会科学部教授の伊藤元重氏が、グローバル規模で拡大する格差の固定化とその是正について解説する。伊藤氏は、市場経済と民主主義の概念の衝突が格差を生むと言う。では今後、格差の固定化を防ぐにはどうすれば良いのか。その方向性について教育の問題とも絡めながら論じる。
時間:16:23
収録日:2017/04/25
追加日:2017/06/02
≪全文≫

●格差問題とトランプ大統領誕生、ブレグジットの関係


 今、反グローバル化の議論が世界で流れていて、その根底には格差の問題があるといわれています。アメリカでは今回トランプ氏が当選した一つの背景には、いわゆるラストベルト(rust belt)があり、オハイオ州やミシガン州といった政治的にはスイング・ステート(swing state)の人たちの票が、民主党から共和党に流れてトランプ氏に投票したといわれているのです。

 先日アメリカに行った時、たまたま人に勧められて読んだ本で『Hillbilly Elegy』(邦題『ヒルビリー・エレジー-アメリカの繁栄から取り残された白人たち』J.D.ヴァンス著、光文社)があります。ヒルビリーというのは、アパラチア山系の麓あたりに広がっている、いわゆるプアホワイト、歴史的にいうとかつてアイルランドやスコットランドから来た非常に貧しい人たちのことをいいます。この人たちがいかに貧しいかということが克明に書かれているのですが、すごい内容です。

 実はこの人たちは一時的に豊かになったのですが、それは戦後、特に鉄鋼や自動車産業が盛んになってきて雇用されたからです。それが駄目になって元に戻ってしまいました。麻薬が蔓延し、教育なども受けられなくて生活保護を受けるといった非常に厳しい状況となり、結果的にこの人たちがトランプ氏に投票して政権が動いたといわれています。

 イギリスのブレグジット(Brexit)でも、EUからの離脱に賛成票を投じたのは、ロンドンのような豊かなところではなく、地方が中心だったわけです。そういう中で出てきたのは貧しい人たちで、ポーランドや東欧の人たちがEUのルールの中でどんどん自分たちの近くに来ていろいろな仕事をするために、自分たちの仕事が奪われてしまうのではないかということでした。


●格差の固定化を回避する最大のポイントは教育


 そういう意味で、格差は非常に重要な問題です。特に日本では、格差と教育の問題はペアで議論されることがあり、格差があっても頑張れば豊かになれると考えられてきました。例えば、貧しい家に生まれた黒人の少年でも、バスケットのスター選手になれば稼げるといったように、です。これはアメリカンドリームというのかもしれません。

 一時的であればいいのですが、教育の問題があるので、貧しい人は教育を受けられない、あるいは教育を受けないということで、自分の子どもも貧しくて教育が受けられないという、格差の固定化ということが起こっており、こういう社会はやはり問題が多いのです。ですから、格差を固定させないための最大のポイントとして、どうしたら皆が教育を受けられるようにするかということが、日本でも海外でも議論されています。


●市場経済と民主主義は矛盾する


 この格差の話をコンテキスト(文脈)を変えて議論したいと思います。いろいろな人がそういう議論をしていますが、市場経済という概念と民主主義という概念の間で、ある種の衝突があるのです。そのキーワードが格差だと思います。

 市場経済はどういう特徴を持っているかというと、いつもそうだというわけではないのですが、”Winner take all”とでもいいましょうか、一部の人に富が集中する、あるいはたまたま成功した人は高い所得が得られるけれど、そうでない人もたくさんいるということが起こります。要するに皆に平等に所得や富が動かされるのではなく、どちらかというと成功者とそうでない人の間に格差が出る傾向が非常に強いのです。

 一方、民主主義と...
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