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国立博物館襲撃は政府エリートを狙った明確な戦術

チュニジアにおけるテロの狙い

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授
概要・テキスト
チュニジアの首都チュニス
2015年3月18日、チュニジアのバルドー博物館がテロリストにより襲撃された。これには、チュニジアの重要産業である観光業への打撃という以上に、テロリストが意図する本質的意味がある。イスラム教徒でありながら新しい生き方を模索するチュニジアで起きた事件の意味を、歴史学者・山内昌之氏(東京大学名誉教授)が解き明かす。
時間:19:03
収録日:2015/03/24
追加日:2015/03/27
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≪全文≫

●テロリストの第一、第二の狙い


 皆さん、こんにちは。

 チュニスにおきまして、日本人の観光客3人を含め、20人の外国人観光客がイスラムテロリストの手によって殺害されるという痛ましい事件がまた起きました。チュニスの国立バルドー博物館の遺跡やモザイクといった歴史的、文化的な遺産に対する攻撃、そして、そこにおける外国人観光客の襲撃は、一体何を意味するのでしょうか。

 一言で申しますと、イスラム国(IS)との関係なども自認しているこのテロリストたちは、隣国のリビアで行ったように、チュニジアにもカオス(混沌)をつくり出し、そして、国民の間に亀裂を深めることにその狙いがあったかと思われます。

 これをさらに考えていきますと、三つほどの解釈が可能であろうかと思います。第一は、すこぶる常識的な考えで、チュニジアの最も重要な産業である、歴史的にかつて繁栄した観光業を攻撃の目標にしたということです。第二は、チュニジアは北アフリカにおいてはもとより、アラブ、中東全体においても最も民主化が進んでいる国です。そして、このアラブの春の発端となった国においては、ムスリムであると同時に、民主主義者であるということを可能にさせるような試みや、さまざまな生き方やものの考え方の試みがなされてきました。つまり、敬虔な信者であるということと、法の支配を守る市民であるということ、すなわち欧米風に言うならば、公民、Civicであることを両立させるような生き方をテロリストが否定したというようにも考えられます。2011年の1月革命、いわゆるジャスミン革命後に、チュニジアにおいては第二共和国が形成されましたが、第二共和国におけるチュニジアの市民と、新しい政治エリートに対し打撃を与えることが、その狙いだったかもしれません。


●第三の、そして本質的な狙い


 しかし、この観光業への打撃とは、私からすると、いささか現象的なもののように思われます。また、第二に、この公民的な考え方、Civicな生き方に対する攻撃ということも、確かにそうではありますが、もう少し本質に迫って見る必要があります。

 根本的に申しますと、その二つの延長に関連しますが、三つ目は、イスラムと民主主義を結合し、イスラム信仰民主主義的な法の支配、自由や人権といったような考え方を結合するような政治的な実験、まだ生まれたばかりのさまざ...
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