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当たり前の教訓が一部政治家には当たり前ではないらしい

思考するときに相手の立場をどのくらい考えるか

曽根泰教
慶應義塾大学大学院教授(政策・メディア研究科)
情報・テキスト
フォードとカーターによる大統領候補討論会(1976年)
「相手の立場に立って考えなさい」。当たり前すぎる教訓のはずだが、一部の与党政治家には「当たり前」ではないらしい。政治学者・曽根泰教氏が、実際に体験したある驚くべき経験をもとに与党政治家のメンタルモデルに切り込む。
時間:05:40
収録日:2015/07/13
追加日:2015/08/06
≪全文≫

●「対立者の意見を理解する必要はない」!?


 今回のタイトルは、「思考するときに相手の立場をどのくらい考えますか」です。どうしてそういうことを考えたかといいますと、こういうことがあったのです。

 自民党の当選回数が少ない良質な人たちと議論していたとき、ある人が、研修の手法としてディベートをやりたいと言いました。私もディベートの手法を知っていますし、昔、授業でもずいぶん使っていました。ただ、今は使っていません。それには理由があります。ディベートという手法には、良さ、悪さ、両方があります。

 ところが、ディベートという手法を学びたいと言ったときに、二通りの批判、文句が出てきたのです。一つは、自分たちは政治家で、外国留学の際などにさんざん経験したから、もうその手法を改めてやることはないという立場です。

 もう一つは、どうだったか。私は、ディベートの手法の根幹は、自分と違う立場の人の思考方法を理解することにあると思います。「プロ(賛成)」と「コン(反対)」に分かれて、どちらでも立論できるというのはディベートのいいところです。反対側の人たち、自分とは違う立場の人たちの主張を理解して、その弱点、それが主張したい内容を分かったうえで、こちらの主張をするというディベートの良さがあります。ところが、先ほど言った「ディベートはもうやってきたからいいよ」という、海外経験のあるようなグループではなく、もう片方のグループは、「われわれは反対側の意見なんかを学ぶ必要はないのだ」というのです。「国民から付託されている今の自民党の主張を訴えることが使命なのだ」というのです。

 この人たちの発想に、私は愕然としました。彼らは良質な人なのです。自民党の若手の良質の人の中に、「反対側の意見を聞く必要はなく、いま自分たちが思っている主張を国民に訴え続けること、いかに上手に訴えるか、そちらが重要なのだ」と考え、そこに使命感を持っている人がいる。それがもっと劣悪な形になると、マスコミにせよ、主張にせよ、自分と違う人間を殲滅してしまう方がいい、つぶした方がいいという議論になってしまうわけです。


●マスコミに対する被害者意識


 また、そこで同時に理解したのは、やはりマスコミに対して強い被害者意識を持っていることです。権力を持っている人間は、いつも批判され、嘘ばかり書かれている。それこそ「懲らしめないといけない」という発想があるのです。良質的な人たちにも、マスコミに対する批判がある。

 権力を持っている限り、もう嘘八百を書かれるのは仕方ありません。それを覚悟したうえで、政策にせよ、党の方針にせよ、自分たちの正しい主張、正しい根拠を、どうやって伝えるかが重要です。このことを、自民党の人たちは、野党になったときに、もうしみじみと痛感したのです。野党になると、マスコミは10分の1か8分の1しか書いてくれません。だから、書いてくれるだけありがたい。その時代の経験を持っている人は、謙虚です。

 もう一つあります。野党になったとき、自民党が使える資産というのは、自民党、あるいは自民党本部だけではなく、実は霞ヶ関をこんなに使っていたのだということを、彼らはつくづくと知りました。政策にしても、人材にしても、予算にしても、そうです。党と国家を分けがたいほど一体でやっていた。そのこともしみじみと感じた人がいるわけです。

 そういう意味でも、やはり野党経験をするべきです。ただ、「何がなんでも政権に復帰しないと、自分たちの権力を振るえない」という、野党経験の教訓のそういう生かし方は正しくないと思います。

 野党であるということはどういうことか。やはり悲哀を感じることだし、謙虚になることでもあります。もう一つ、やはり国民の意見は、多面的に眺めなければならないし、相手方、反対側は、一体、何を根幹にしているのかを理解することが必要です。そのうえで、自分の主張を述べるべきです。ごくごく当たり前のことですが、これが実は欠けている人が多かった。それが今回の事件ではないかと思います。
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