編集長が語る!講義の見どころ
「浄土宗」を開いた法然の革命性とは?(頼住光子先生)【テンミニッツTV】

2021/08/31

いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上です。
日本仏教のことを知ると、日本を見る眼も大いに変わってきます。大好評の頼住光子先生(東京大学大学院人文社会系研究科・文学部倫理学研究室教授)の「【入門】日本仏教の名僧・名著」の講義シリーズが、いよいよ「鎌倉仏教」に突入しました。

今回は「法然」編を紹介します。法然は1133年の生まれで、1212年に没していますので、まさに「鎌倉仏教」の入り口に位置しています。

法然といえば「浄土宗」を開宗した人物として有名です。浄土宗は、現在の日本でもとても信徒数が多い宗派の1つ。「ご自宅やご実家の宗派が浄土宗」「近所に浄土宗のお寺がある」という方も、数多くいらっしゃるのではないでしょうか。

法然の浄土宗の考え方は、日本オリジナルの仏教のかたちだといわれます。ただし、阿弥陀仏に帰依して極楽浄土への往生を願う浄土教は、中国などでも広まった考え方であり、法然以前の日本でも広く信仰されていました。では法然は、何を変えたのでしょうか。そして、どのような教えを説いたのでしょうか。ぜひこの機会に法然の書いた文書もひもときながら学んでみてはいかがでしょうか。

◆頼住光子:【入門】日本仏教の名僧・名著~法然編(全3話)
(1)鎌倉仏教と専修念仏
「観想念仏」から「口称念仏」へ、法然の革命性に迫る
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4066&referer=push_mm_rcm1

法然の革新性を考えるうえでは、まず本講義のシリーズの「源信」編をご覧いただくと、より理解が深まるかもしれません。

◆頼住光子:【入門】日本仏教の名僧・名著~源信編(全2話)
(1)末法思想と浄土信仰
末法直前に法華一乗思想と浄土信仰を両立した源信の教え
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3933&referer=push_mm_rcm3

日本では、1052年(永承7年)から「末法」の世に入るといわれていました。「末法」というのは、仏教における、ある種の予言的な時代区分認識であり、「この時代になると、仏の教えは残っているけれども、修行することも悟りを開くこともできなくなる」と考えられていました。

この修行も悟りも不可になる「末法の世」に、極楽浄土に往生するためにはどうするか。そこで盛んになったのが「浄土教」でした。

「無量寿経」というお経に、阿弥陀仏のことが書かれています。これによれば、法蔵比丘という僧侶が「生きとし生けるものが念仏をして浄土に往生できるまで、自分は成仏しません」という願を立て、一生懸命修行をして成仏し、阿弥陀仏になったとされています(法蔵神話)。そんな願を立てた阿弥陀仏が成仏していらっしゃるのだから、「念仏する一切衆生が浄土に往生できることは確定している」。このような信仰が、修行も悟りもできない末法の世で救いになったのです。

ただし、ここでいう「念仏」は、現代日本人が普通にイメージする念仏とは少し違いました。われわれがイメージする念仏は「南無阿弥陀仏」と唱えること(口称念仏)ですが、源信らが説くもともとの念仏は、それだけではなかったのです。

本来は、阿弥陀仏のお姿を思い浮かべたり、それが難しいならば仏様の眉間の白毫(小さな丸。本来は白く長い毛が丸まったもの)を思い浮かべたりする「観相念仏」が主でした。それが難しい場合は「口称念仏」でも構わないという位置づけだったのです。

しかし法然は、「口称念仏さえすれば、全員救われる」という「専修念仏」の考えを打ち出します。このような研ぎ澄まし方は中国においてもなく、まさに日本独特のものだったのです。

法然が、このように考えを突きつめていったのは「一挙に全ての人を救うためにはどうしたらいいかというところに集中していったから」だと頼住先生はおっしゃいます。法然は「智慧第一の法然坊」といわれるほどに、仏教の学問を究めた僧侶でした。しかし法然にとっては、あくまで「末法の世」にいかに庶民を含めた「一切衆生」を救うかが重要だったのです。

このような法然の「専修念仏」の考え方は、当時の仏教界からすれば「異端」でした。そのため、法然は弾圧されて強制的に還俗(僧侶の身分を剥奪されること)させられ、土佐に流されることになります(実際には讃岐=香川県に配流)。しかし、そのような厳しい局面でも法然は挫けません。「自分はかねてから、都を離れた僻地の人に専修念仏の教えを伝えたいと常々考えていた。流罪になるのはとてもいい機会だ」と語ったといいます。

頼住先生はさらに法然の「選択本願念仏集」や「一枚起請文」の文章を引いて、法然の考え方をご解説くださいます。たとえば「一枚起請文」には「往生極楽のためには、南無阿弥陀仏と申して、疑なく往生するぞと思とりて申す外には、別の子細候わず」という法然の覚悟を示す言葉がありますが、その言葉の真意についても、頼住先生はわかりやすく解説してくださっています。

また頼住先生は、鎌倉仏教の始祖たちが、「どんどん研ぎ澄まし、絞り込んでいく」かたちで教えを立てていった理由や動機についてもお話しくださっています。

日本仏教への理解がグッと深まる講義です。ぜひご覧ください。

(※アドレス再掲)
◆頼住光子:【入門】日本仏教の名僧・名著~法然編(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4066&referer=push_mm_rcm2

◆頼住光子:【入門】日本仏教の名僧・名著~源信編(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3933&referer=push_mm_rcm4

※頼住光子先生の「頼」は、実際は旧字体(件名、本文いずれも)


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☆今週のひと言メッセージ
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「これからは社員を幸せにする『幸福経営』を第一目標にするべきではないか」

https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3528&referer=push_mm_hitokoto

社員を幸せにする「幸福経営」は欧米では常識となっている
前野隆司(慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授)

欧米ではすでに始まっていますが、これからは社員を幸せにする「幸福経営」を第一目標にするべきではないかと思っています。もちろん日本でも似たような試みはあります。稲盛和夫氏の盛和塾もありますが、京セラやKDDIもそうですし、JALなどの理念には「全従業員の物心両面の幸福を追求」といったことが最初のほうに書かれているのです。


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今週の人気講義
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『LIFESPAN 老いなき世界』が突き付けた永遠の命の意味
長谷川眞理子(総合研究大学院大学長)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4060&referer=push_mm_rank

『論語』で「義を見てせざるは勇無きなり」と説いた真意
田口佳史(東洋思想研究者)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4106&referer=push_mm_rank

男性脳と女性脳の違いから分かる「子育てのトリセツ」
黒川伊保子(株式会社感性リサーチ 代表取締役社長/人工知能研究者/随筆家)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4138&referer=push_mm_rank

日本とアメリカのベンチャーキャピタルはどう違うのか
片岡一則(ナノ医療イノベーションセンター センター長/東京大学名誉教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4135&referer=push_mm_rank

普通の足の形で速く走れる義足を目指して!
臼井二美男(義肢装具士)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=1401&referer=push_mm_rank


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編集後記
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今回のメルマガ、いかがでしたか。編集部の加藤です。

さて、本日は8月最後の日ということで、今月よく視聴されたシリーズ講義を3つ紹介いたします。

片山杜秀:近現代史に学ぶ、日本の成功・失敗の本質(全9話予定)
(1)「無任所大臣」が生まれた経緯
現代の「担当大臣」の是非は戦前の「無任所大臣」でわかる
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4121&referer=push_mm_edt

長谷川眞理子:人新世とは何か~人類の進化と負の痕跡(全3話)
(1)地球史と人類の進化史
なぜ人新世が提唱されたのか、地球と人類の歴史から考える
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4057&referer=push_mm_edt

津崎良典/五十嵐沙千子:「教養とは何か」を考えてみよう(全15話)
(1)「あの人って教養あるよね」とは
「哲学カフェ」再現講義第二弾「教養とは何か」語り尽くす
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3986&referer=push_mm_edt

いずれも大変人気があるのですが、よく見ると今月の特集に関連する講義ばかり。それだけ注目の特集が続いているということですね。

なお、片山杜秀先生(慶應義塾大学法学部教授/音楽評論家)のシリーズ講義「近現代史に学ぶ、日本の成功・失敗の本質」は現時点で4話目まで配信で、明日(9/1)5話目配信の予定です。その後も見逃せないお話が続いていきます。ぜひ続けてご視聴ください。