編集長が語る!講義の見どころ
ぜひ知っておきたい名僧・明恵の教え(頼住光子先生)【テンミニッツTV】

2021/11/09

いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。

皆さまは、鎌倉時代初期の名僧・明恵(1173年~1232年)をご存じでしょうか。「はて、どのような方だったかな?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

明恵は、同時代の鎌倉仏教の始祖たちのように宗派を開いた方ではなく、華厳宗の僧侶であり、むしろ同時代の法然の「専修念仏」を厳しく批判した方です。

しかし、その一方で、自分の夢を青年期から晩年に至るまで記録した『夢記(ゆめのき)』を残していたり、「菩提心」を重んじて仏教の戒律を厳しく守り抜いた姿から「生涯不犯の唯一の清僧」と称されたりするなど、非常に魅力的な高僧です。

随筆家の白洲正子が『明恵上人』(講談社)という名作紀行エッセイを残し、心理学者の河合隼雄が『明恵 夢を生きる』(講談社+α文庫)という書籍を残していることからも、その魅力がうかがえるのではないでしょうか。

本日は、大人気の頼住光子先生(東京大学大学院人文社会系研究科・文学部倫理学研究室教授)の「【入門】日本仏教の名僧・名著」講座シリーズより「明恵編」を紹介いたします。

◆頼住光子:【入門】日本仏教の名僧・名著~明恵編(全2話)
(1)批判精神と『夢記』
法然を厳しく批判した明恵が一番大切にしていたのは菩提心
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4216&referer=push_mm_rcm1

上でも書いたように、明恵は、法然の「専修念仏」を厳しく批判しました。この頼住先生の講座では、明恵の「明恵上人遺訓」の原文を読み解いていただきつつ、その批判の内容をご紹介いただいています。

原文の解説は講座本編をご覧いただくとして、ここではそのポイントだけを記すと、明恵が強調していたのは、「有るべき様」=「そうあらなければいけないあり方」をきちんと実現していくことが大切だという考え方です。

明恵は、この「有るべき様は」を万葉仮名で「阿留辺幾夜宇和」とも記し、その7字を心に持つことが大切だと説くのです。

では、僧侶の「あるべきよう」とは何でしょうか。

明恵は華厳宗ということもあり、「菩提心」を大切にします。菩提心とは、「自分が修行して悟りを得ることによって、多くの人を救おうとする心」です。ですから、明恵にとって僧侶の「あるべきよう」は、きちんと戒律を守って修行することになるです。

明恵の法然への批判も、この考えを前提としてのことでした。

法然は、末法思想に基づき、「末法の世(日本では1052年からその時代に入ると考えられていた)では、修行することも悟りを開くこともできない」ので、「阿弥陀仏の誓願にすがり、阿弥陀仏の名前を唱える念仏をすることで浄土に往生するのが、多くの人を救う道だ」と考えたわけです(詳細は、ぜひ頼住先生の本講座シリーズの法然編をご参照ください)。

しかしそれでは、僧侶としての「あるべきよう」をきちんと守っていないではないかと、明恵は主張するのです。ここは、とかく理論や現状対応を優先させて考えてしまいがちなあり方に対する、まことに根源的な批判ということができましょう。

そういう明恵は、非常に厳しく戒律を守った方でした。若いころの明恵は、その美男子ぶりから、いまでいう追っかけのファンがつくほどでした。これでは修行が妨げられてしまうと考えた明恵は、自分の姿形を損なおうと考えて、自分で自分の耳を切り落としてしまうのです。

そこまでして、一途に仏道に打ち込んだ明恵。だからこそ、彼が自分の夢を書き記して分析した『夢記』も、まことに興味深いものです。なんと明恵は、夢から得たメッセージを、実際の修行にも活かしていたのです。

さらに明恵が遺した和歌も、まっすぐに心に響きわたります。頼住先生は3首をご紹介くださいます。

「雲を出でて 我にともなふ 冬の月 風や身にしむ 雪やつめたき」

「くまもなく すめる心の かがやけば わが光とや 月思ふらん」

「あかあかや あかあかあかや あかあかや あかあかあかや あかあかや月」

明恵の『夢記』や和歌の解釈については、ぜひ、講座本編をご覧いただければ幸いです。

明恵の考え方に触れると、「本当に大切なことは何か」がしみじみと胸に広がってくる感じを覚えます。

日本仏教のことを学ぶと、われわれの心の中に、いつしか知らず知らずのうちに流れている感性や、信仰心、哲学的思弁がいきいきとよみがえってくる気がします。ぜひご覧ください。


(※アドレス再掲)
◆頼住光子:【入門】日本仏教の名僧・名著~明恵編(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4216&referer=push_mm_rcm2

※頼住光子先生の「頼」は、実際は旧字体(件名、本文いずれも)


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☆今週のひと言メッセージ
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《人間は虚構を信ずる能力を持っている》

https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4204&referer=push_mm_hitokoto

『サピエンス全史』で提起した「虚構を信ずる能力」の問題
上野誠(國學院大學文学部日本文学科 教授/奈良大学 名誉教授)

ユヴァル・ノア・ハラリの『サピエンス全史』では、何が問題になっているかというと、それは、「人間は虚構を信ずる能力を持っている」ということです。

「虚構を信ずる能力」が生まれることによって、例えば貨幣が生まれ、人と人とに信頼が生まれる。「申し訳ないが、1週間後に商売があるから、今その元手を貸してくれ」と言えば、「分かった、1週間後にそのお金を返してくれるのだな」とお金を貸すことがあります。サルにはそういった言語能力もなければ、ネットワークを形成する力もありません。一方、お金を返さない人たちに対する社会的な制裁も当然、生まれる。社会とはそのように生まれるのだ、というのです。

地域ごとに考え方の差は生まれるのだけれども、そのような地域ごとの約束事が統合化されて「文明」が生まれ、さらにはその文明を包み込むような「グローバル(巨大)な文明」が生まれてくるのだ、というのがユヴァル・ノア・ハラリの考え方です。


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曽根泰教(慶應義塾大学名誉教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3173&referer=push_mm_rank

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編集後記
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今回のメルマガ、いかがでしたか。編集部の加藤です。

さて本日は、先週金曜日から配信が始まった中島隆博先生(東京大学東洋文化研究所 教授)の新シリーズ講義「デジタル全体主義を哲学的に考える」をご紹介します。

◆中島隆博:デジタル全体主義を哲学的に考える(全7話予定)
(1)デジタル全体主義とは何か
20世紀型の全体主義とは異なる「デジタル全体主義」とは
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4241&referer=push_mm_edt

この講義のベースになっているのは、昨年(2020年)発刊された中島先生とマルクス・ガブリエルさんとの共著『全体主義の克服』(集英社新書)です。
「デジタル全体主義」とは何を意味しているのか。もともとあった全体主義とどう違うのか。ベストセラーとなった『ホモ・デウス』でユヴァル・ノア・ハラリ氏が説いた「無用者階級」という言葉も引き合いに出しながら、その実態に迫っていきます。
毎週金曜日配信で全7話予定です。ぜひシリーズを通してご視聴ください。