●金融正常化の背景-3つのポイント
今回の金融政策正常化とそれに伴う困難という現象の背景にどういうことがあるかという点で大事なのは、いくつかの可能性が考えられることです。
一番大きいポイントの1つは、インフレ率がなかなか上がってこないということです。その原因として、いわゆる長期停滞論的な可能性が挙げられます。長期的には経済的にあまり儲からないところに来ているため、長期的な利潤率、利子率もあまり高くならないし、インフレ率もあまり上がらず、FEDもあまり引き締めはできないであろうという話になります。
また違う可能性としては、そこそこ金利は上がってきているし、これからも多少は上がるでしょうから、それから国債を買う、あるいは買った国債をだんだん減らしていくというような動きが起こってくるので、実は本当は長期金利はもっと上がってしかるべきであるのに、マーケットが長い期間の金融緩和に流され過ぎていて、少し間違った反応をしているのではないかという仮説が挙げられます。この仮説にも若干の説得力があるように見えます。
●正常化の背景-リーマンショックの二の舞を避ける
では、なぜここでFEDがこれ以上引き締めるのかということを考えたいと思います。経済はいいのですが、インフレ率はどうでしょうか。データをご覧ください。こちらのグラフはアメリカの消費者物価指数上昇率です。2016年は原油の上昇もあり数値が上がったのですが、足元はまた少し下がってきています。つまり、強い強い金融緩和に比べると、インフレ率の動きは非常に鈍いものであるというのが世界中で起こっていることです。
ですから、あまり焦って引き締めをする必要はないのではないかという考え方もあり得るのですが、マーケットがいい気になりすぎていて、場合によってはどこかで何らかのきっかけでも大きく考え方を変えて暴落してしまうということになると、リーマンショックのようなことになってしまうのです。それは避けたいわけで、避けるために多少早めに引き締めや正常化をしておくという考え方もあり得ます。そのような考え方を、金融政策に関する「BIS(国際決済銀行)ビュー」と言ったりします。このあたりも今後、欧米の起こるかもしれない正常化の一つの背景ではないかという見方もあります。
●長期停滞論を裏付ける実物投資と金融資産売買の割合
こちらは、IMF(International Monetary Fund国際通貨基金)の最近のリポートですが、長期停滞論に関係するような図であります。いろいろ線がありますが、どれもほぼ同じで、青い線が企業部門のレバレッジの比率を表しています。要するに、自己資本に対して借り入れを何倍起こして資産運用しているかということです。これが高いほど自己資本に比べて借り入れをたくさん起こしているということで、最近借り入れ比率が非常に高まっていることが分かります。
自己資本と借り入れを加えて何に使っているかというのが、右側の円グラフです。緑のところが実物資産で、工場・機械・設備といった資本財の購入に向かっているということで、赤いところは金融資産の売買に行った部分です。半分以上が赤いところということで、企業部門は自己資金に借り入れを加えて、資金をたくさん用意していますが、あまり実物投資のリターンが高くないという悲観的な予想があるので、資本財の購入の方はあまり盛んではなく、金融資産の売買にお金が向かっています。だから、株価も高いという循環が現在起こっています。それが先ほどの長期停滞論の一つの現れであるわけです。
●今後の可能性1-ぬるま湯相場は崩れる
最後に今後ということで、可能性を2つに分けて考えてみたいと思います。これまでの相場のことを「ゴルディロックス(goldilocks)相場」と言ったり、「ぬるま湯相場」と言ったりします。これは、お湯に入っているのですが、あまり熱くもならないし冷たくもならず、ちょうどいい湯加減という意味ですが、その中で、金利は急上昇せず、株価は上がっていくというイメージです。これが崩れるという可能性が一つあります。崩れる契機としては、インフレ率があまり上がっていないと言いましたが、これだけ景気がいいとどこまで急速の上昇をするかという可能性が依然として否定できないということです。そうした面からインフレ率の動向が要注意であることが一つ挙げられます。
2番目としては、あまりデータ的に新しいものが出てくるというわけではないのですが、市場はこれまでいい気になりすぎていたというところを、何らかのちょっとした事件、あるいはデータで足をすくわれて、大きな調整に入るという可能性もあるということです。
3番目には、特に米国ですが、長く続いた経済の上昇が近い将来、下降局面に自然と向かうということです。自然と向かう理...