日本銀行の新しい政策枠組み
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
イールド・カーブを見れば、マイナス金利の影響は一目瞭然
日本銀行の新しい政策枠組み(2)金利政策と今後の予想
植田和男(第32代日本銀行総裁/東京大学名誉教授)
日銀のフレームワーク変更では、金利をコントロールしつつ金融政策を続けていくことが眼目とされた。それでは金利引き下げの余地はあるのか。それに伴うリスクは何が考えられるのか。ユーロ圏との比較や戦後米国の事例などと対照しつつ、東京大学大学院経済学研究科教授・植田和男氏に解説していただく。(全2話中第2話)
時間:13分08秒
収録日:2016年9月27日
追加日:2016年10月13日
カテゴリー:
≪全文≫

●金利引き下げによる影響。銀行から一般家計まで


 今後の日銀による金融政策のポイントは、金利をコントロールしつつ政策を続けていくことにあるわけですが、当然、次に疑問になってくるのは、金利を引き下げる余地はどのぐらいあるのかということです。

 ここでは一部ですが、ポイントを指摘したいと思います。一つは短期のマイナス金利です。これをどんどん深掘りしていくという方向性に関しては、特に金融仲介機関、つまり銀行の収益に与える影響が思ったより大きいために、そう簡単ではないことが分かっています。

 さらに、もう少し長期のところを見ていくと、金利低下のときはいつでもそうですが、今回は普段にもまして、年金や保険等の投資家が苦しい。あるいはそれを察知して、こうした投資家の生み出す収益を受益する立場の一般家計のマインドにもマイナスが出ているのではないか、ということが言われたりしています。


●政策金利と貸出預金金利の関係をユーロ圏と日本で比較する


 そういう中、「ユーロ圏と日本におけるNIRPへの貸出預金金利の反応」という資料を見ていきましょう(NIRP:Negative Interest Rate Policy=マイナス金利政策)。

 まず、政策金利であるIOER(超過準備預金金利)は、ユーロ圏では40ベーシスポイント(0.4ポイント)、日本では20ベーシスポイント下がっています。

 それに対応する貸出金利の下げ幅を見ると、ユーロ圏は88と非常に大きく下がっているが、日本ではマイナス18で、20も下がらない数字です。もちろん最初に政策金利がどれだけ下がったかという幅の違いはありますが、そもそも日本は、長期間の金融緩和継続のために金利全体が非常に低いところにあります。金融カーブ(イールドカーブ)の左端にある政策金利が少々下がっても、貸出金利はなかなか下がれない状態だということになっているのです。

 貸出金利が十分に下がらなければ、実体経済への波及効果はやや小さいわけですが、にもかかわらず金融機関の収益への影響はなかなか厳しいと見られています。赤丸で囲んだ74という数字では、新規貸出をしたときの利鞘(りざや)を表しています。ユーロ圏と比較するとかなり低いことが分かります。さらに、もっと古い数字も含めた平均をとると100になりますが、これに対する経費率は(右端の赤丸で囲んだ)87ベーシスポイントくらいかかると言われています。
...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
日本人が知らないアメリカ政治のしくみ(1)アメリカの大統領権限
権限の少ないアメリカ大統領は政治をどう動かしているのか
曽根泰教
戦争とディール~米露外交とロシア・ウクライナ戦争の行方
「武器商人」となったアメリカ…ディール至上主義は失敗!?
東秀敏
習近平―その政治の「核心」とは何か?(1)習近平政権の特徴
習近平への権力集中…習近平思想と中国の夢と強国強軍
小原雅博
「中華民族の偉大な復興」と中国外交(1)外交姿勢・前編
四字熟語で見る中国外交の変化
小原雅博
緊急提言・社会保障改革(1)国民負担の軽減は実現するか
国民医療費の膨張と現役世代の巨額の「負担」
猪瀬直樹
デジタル全体主義を哲学的に考える(1)デジタル全体主義とは何か
20世紀型の全体主義とは違う現代の「デジタル全体主義」
中島隆博

人気の講義ランキングTOP10
戦争とディール~米露外交とロシア・ウクライナ戦争の行方
「武器商人」となったアメリカ…ディール至上主義は失敗!?
東秀敏
逆境に対峙する哲学(2)運命・世界・他者
「私をお母さんと呼ばないで」…突然訪れた逆境の意味
津崎良典
豊臣兄弟~秀吉と秀長の実像に迫る(1)史実としての豊臣兄弟と秀長の役割
豊臣兄弟の謎…明らかになった秀吉政権での秀長の役割
黒田基樹
熟睡できる環境・習慣とは(4)起きているときを充実させるために
夜まとめて寝なくてもいい!?「分割睡眠」という方法とは
西野精治
渡部昇一の「わが体験的キリスト教論」(1)古き良きキリスト教社会
古き良きヨーロッパのキリスト教社会が克明にわかる名著
渡部玄一
平和の追求~哲学者たちの構想(4)ルソーが考える平和と自由
ルソーの「コスモポリタニズム批判」…分権的連邦国家構想
川出良枝
死と宗教~教養としての「死の講義」(1)「自分が死ぬ」ということ
世界の宗教は死をどう考えるか…科学では死はわからない
橋爪大三郎
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(2)言葉を理解するプロセスとスキーマ
なぜ子どもは教えられても理解できないのか?鍵はスキーマ
今井むつみ
「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス
重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ
三谷宏治
インテリジェンス・ヒストリー入門(1)情報収集と行動
日本の外交には「インテリジェンス」が足りない
中西輝政