●反エリート主義による専門家軽視
―― 今(第8話)は移民のお話でしたけれど、今度はマクロ経済の運営ですね。政策をどう進めていくかという点においては、金融政策を進めていく役目が、アメリカだとFRB(連邦準備制度理事会)ということになりますけれど、そこが大変重要な役割を担うことになります。ここについても独立性の危機ということなのですか。
柿埜 基本的にトランプ政権は、先ほどから文化戦争の文脈でずっとお話をしていますけれど、「われわれはリベラルのエリートたちに騙されて酷い目に遭っている普通の人間なのだ。そういうエリートどもを追い出して私たちの国を取り戻すのだ」という考えでやっているわけです。
移民とかLGBTとか、なんでもかんでもそうなのですけれど、あるいは「外国のウクライナが、自分たちの支援に乗っかっている」というのもそうなのですが、「そういう奴らにいいようにされてきた」と思っているわけですが、これは思い込みであるわけです。
「とにかくエリートをやっつけなければいけない」という発想があってそれでやっているものですから、専門家というものを全然信用しないわけです。軍事に関しても、素人を任命するようなことをやっていますが、FRBに関してもやはりそうなのです。
パウエルFRB議長を任命したのはそもそも第一次トランプ政権だったはずなのですけれど、「専門家がやるのは気に食わないと、私のほうが企業経営を分かっているから、こんな奴らが金融政策を決めるなんて嫌だ」「ドル安にしろ」、あるいは「金利を下げろ」といったことを、トランプは好き放題、選挙中から言っていたわけです。
そういう発言の通りにパウエル議長がFRBの政策を決めたりしたら、アメリカのインフレは一応落ち着いていますけれど、また跳ね上がる可能性があります。まだそんなに落ち着いていない状態です。しかも、トランプが関税政策とか大量強制送還をやれば上がる可能性が高いわけです。パウエルは変なことはできないと思って、真面目にやっているわけです。
ところが、トランプが本当にこの調子でずっと圧力をかけ続けると、しかも今までの傾向からして専門家を自分のイエスマンに置き換えていくというやり方でやっていくと、パウエルも2026年(まで)任期ですけれど、任期前に追い出される可能性も否定はできないの...