古本のインターネット書店が充実し、史料探しはずいぶん楽になった現在だが、地方にある書店の地元出版コーナーも見逃せない。新書などの文献目録を参考にするという手もあると中村氏は言う。ではそうして歴史を調べ、たどっていく意味はどこにあるのか。中村氏は、歴史を探っていくことで、複眼的な視野が得られるのだという。もし、自分自身が切羽詰まった苦しいところに追い込まれてしまったとしても、歴史の中の様々な事例を参考に立て直すこともできるのだ。(2025年4月26日開催:早稲田大学Life Redesign College〈LRC〉講座より、全7話中第3話)
※司会者:川上達史(テンミニッツ・アカデミー編集長)
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●「日本の古本屋」サイトの充実
―― 前回は江戸時代の話でございましたが、現代では古本のインターネット書店が非常に充実していますね。
中村 そうですね。私たちが書き始めた頃はまだ、「こういう史料がある」と聞けば「どこにあるのだろう」と、足で歩いて探したものです。(当時)一番よかったのはやはり神田の古本街で、残念ながら早稲田のそれは大したことはなかったですね(笑)。
一度どこかから注文して買った古本屋からは、大体書籍目録が送られてきます。それを必ず読んで、必要なものがあればすぐに頼む。そうしないとタッチの差で誰かに買われてしまうようなことがよくあったものです。
しかし、今はネット上の「日本の古本屋」というサイトで、全国にある本が何冊出ているかということをトータルで、全部一気に見ることができます。しかも、「この本はいくら、ただし箱が欠けている」とか「これは少し高いけれど全くの美品である」とか「少し線を引いたところがあるのでその分安い」とか、そういう特徴が全部出ています。それらを見比べて、日本中で例えば今20冊出ている中で、一番高いのはいくら、一番安いのはいくらというように、(自宅に)いながらにしてチェックすることが可能な時代になってきました。
神田の古書街を巡っていると、やはりくたびれるものですから喫茶店に入ってコーヒーを飲んだりしていましたが、最近は全然行かなくなりました。神田の喫茶店は困っているのではないかとよけいな心配をしてしまいます。
例えば、私が一番驚いたのは、金沢の地元紙に加賀藩・前田家のことを2年間連載してくれという話をいただいたときです。前田家の基本史料としては『加賀藩史料』という、このぐらい分厚いものがあります。前田利家から幕末・維新までの殿様の業績が全部載っているわけです。
(ネットを)見ると、全国で20冊ぐらい出ていた中で一番高いのが東京で、1セット50万円ぐらいでした。一番安いのが20万円と少しでしたので、それはどこだろうと思って見ると、金沢の古書店なのです。
やはりどうしても『加賀藩史料』のようなものを揃えておきたい人というのは、もと前田家に仕えていた人たちの子孫などが多分多くなるのだと思います。また、大学でも金沢大学の史学科などに、加賀藩の専門家が集中すると思います。そういうことから、ある程度の部数がその町にある。そ...