●必ずしも「苦界」ではなかった江戸時代の吉原
―― 皆様こんにちは。
堀口 こんにちは。
―― 本日は堀口茉純先生に、「『江戸名所図会』で歩く東京」ということでお話をいただきたいと思います。堀口先生、どうぞよろしくお願いいたします。
堀口 お願いいたします。
―― いろいろな場所を見てまいりましたけれども、今回はどちらになりますか。
堀口 今回は江戸の遊び場ということで、江戸の遊郭の「吉原」を取り上げたいと思います。
―― 前回は、遊び場で両国を取り上げていただきましたが、今回は吉原ということですね。
堀口 そうですね。
―― 堀口先生で、吉原というと、こちらの『吉原はスゴイ 江戸文化を育んだ魅惑の遊郭』(PHP新書)という本がございます。
堀口 ありがとうございます。
―― 中を見ますと、絵もたくさんで、全編に絵が入っています。
堀口 そうなのですよね。
―― 素晴らしいです。
堀口 川上さんにご苦労していただいて作りました(笑)。
―― いやいや、そんなことないです。私が「この本は素晴らしい」というと内輪になりますが、これは担当編集をさせていただきました。
堀口 本当にいい本を出させていただきました。
―― この素晴らしい1冊がございます。ぜひこちらもお読みいただければと思います。
堀口 はい。
―― 今回は吉原ということでございますね。
堀口 そうなのです。本の中でも書いたのですけれども、遊郭の吉原というと、一般的には、かわいそうな女性たちが閉じ込められて、遊女として過酷な労働を強いられていた悲惨な場所というイメージが強いかと思います。
―― これはよく映画などでも、苦しい世界と書いて「苦界」と言っていたりしますね。
堀口 おっしゃるとおりです。これは江戸時代以降の吉原を舞台に作られた創作作品のイメージが非常に大きいのかなと思っています。たとえば文学作品でいえば『たけくらべ』(樋口一葉 著)ですし、映画でいえば『吉原炎上』(1987年公開、東映映画)などです。これらの作品というのは、本当に名作だと思うのですが、江戸時代の遊郭吉原とは描かれている時代が違うということに注意が必要なのです。
『たけくらべ』は明治時代の中期ですし、『吉原炎上』は明治末期が舞台になっています。なので、たしかに江戸時代における遊郭吉原では、女性たちが過酷な労働...