日本企業が世界のビジネスに乗り遅れた主な要因として、二つのオウンゴールを挙げる島田氏。その一つとして台湾のモリス・チャン氏によるTSMC立ち上げの話を取り上げるが、日本はその動きに興味を示さず、かつて世界を席巻していた時代のやり方から脱却できなかった。なぜそうなってしまったのか。もう一つの要因と合わせて、日本企業の敗因について語る。(全7話中第6話)
※インタビュアー:神藏孝之(テンミニッツ・アカデミー論説主幹)
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●アメリカに負けた日本のオウンゴール
島田 日本が決定的にアメリカに負けてしまったのは、アメリカの無体なやり方もあるけれど、日本がオウンゴールして負けているという感じが、二つぐらい(のケースを)勉強してみると、私にはどうしても出てきます。
―― オウンゴールですか。
島田 オウンゴール。何がオウンゴールかというと、一つは台湾にTSMC(台湾積体電路製造)という、今世界最強のファウンドリー(受託製造企業)があります。モリス・チャンという人がつくった会社です。彼の考えたやり方は、世界の半導体生産に横串を刺して、世界共通のネットのプラットフォームをつくってしまうということです。
その理由は少し説明しないと分かりにくいと思います。モリス・チャン氏は中国で非常に苦労した人です。毛沢東批判派の家族のため、中国にはいれなくて、結局アメリカに逃れ、そこで勉強してテキサス・インスツルメンツに勤めました。そこで技術部長まで出世したときに、台湾から帰ってくるよう要請されます。
「台湾には主な産業がないからお前がやれ」と言われ、「コンピュータが作りたいです」と答えたものの、お金がない。というので、「こういうものをつくりたい。台湾政府が応援している」とアメリカのいろいろな企業に相談に行った。日本の企業にも来て相談しましたが、日本企業は一銭も出していません。
―― もったいないですね。
島田 というか、これは要するに下請けです。下請けをつくると、工場にお金がかかるわけです。では、アメリカはどうしているかというと、「ファブレスカンパニー」といって、工場のない企業をつくっている。アメリカは徹底的に設計と新しいアイデアでいく方針です。そうすると、アメリカには世界中から優秀な人が来ますから、どんどんやる。そのファブレスカンパニーだと、3人でもつくれてしまいます。
―― なるほど。
●世界のビジネスに乗り遅れた日本
島田 いい製品を出せば非常に儲かる。固定資産がないので、利益率はとても高い。ファブレスカンパニーが一番多い時期には7000社あったといいます。
―― すごいですね。
島田 3人ぐらいでつくれると、そうなるのでしょうね。そういう会社が、「どこかでつくってくれ」と。韓国がいいのか台湾がいいのかという中、モリス・チャン氏がそれを引き受けたほうがいいということになったのですが、...