たかが「1」、されど「1」――今、数の意味が理解できない子どもがたくさんいるという。そもそも私たちは、「1」という概念を、いつ、どのように理解していったのか。あらためて考え出すと不思議な、言葉という抽象概念の習得プロセス。それを認知科学の観点から研究してきた今井むつみ氏。ベストセラー『学力喪失』(岩波新書)の著者でもある今井氏が、生きた知識と言語習得の関係を解説する本講義。まずは言葉が大変抽象的で複雑であることと、それを習得する過程の重要性について確認する。(全5話中第1話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツ・アカデミー編集長)
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質
なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち
哲学と生き方
今井むつみ(一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事/慶應義塾大学名誉教授)
3.アブダクションは間違える…でも人間社会の発展に不可欠
2025年10月7日配信予定
4.気づきを与えるカードゲームの魔法、大事なのは足場かけ
2025年10月13日配信予定
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2025年10月13日配信予定
5.人間とAIの本質的な違いは?記号接地から迫る理解の本質
2025年10月14日配信予定
時間:10分36秒
収録日:2025年5月12日
追加日:2025年10月6日
収録日:2025年5月12日
追加日:2025年10月6日
≪全文≫
●子どもの言語習得研究から「生きた知識」について考える
―― 皆さま、こんにちは。今回は今井むつみ先生に『学力喪失 認知科学による回復への道筋』(岩波新書)についてお話を伺ってまいりたいと思います。今井先生、どうぞよろしくお願いいたします。
今井 皆さま、こんにちは。今井むつみでございます。今回はよろしくお願いいたします。
―― よろしくお願いいたします。先生、この本もたいへん話題のご本ということで、私も実は今井先生の最初に読んだ本がこのご本だったのですけれど、最初に私の拙い感想を申し上げます。
最初のほうは、実際どれだけ今のお子さんが学力で苦しんでおられるかという実例が5章にわたって展開されていて、それ自体とても興味深いですし、「ああ、なるほど、こういうところで引っかかるのか」とか、「あっ、こういう理解のされ方をしてしまうのだなということで、興味深いお話ではあったのですけれど、何より驚きましたのが特に第6章です。
いちばん最後に「まとめ」というものが付いているのですけれど、ここから後、(つまり)第6章の「まとめ」から第7章、第8章と読んでいくにつれまして、私個人の感想でいいますと、あたかも小さいお子さんが言葉を覚えていって、その抽象化をしていくような過程といいますか、物事を理解するというのはそういうことだったのだなということが手に取るように分かる。この分かる喜びに近いものを覚えまして、たいへん印象深かったのです。先生、今回このご本のご執筆のお心というか、それはどういうものになるでしょうか。
今井 私はもともと認知科学の研究者で、教育学を専門にしていますとはとても言えなくて、もっと基礎的なところで子どもがどのように言語を学んでいるのかということをずっと研究してきたのです。(つまり)心理学の実験をしながら、ずっと子どもの言語習得について研究をしてきました。
その中でずっと思っていたのは、子どもの言語習得というのは人間の学び、特にその使える知識、私は「生きた知識」とこの本(『学力喪失』)でも言っているのですけれど、生きた知識を習得するとはどういうことなのかという、そのすごく大事な問題にとても大きな示唆を与えてくれると、ずっとそう思いながら子どもの言語習得について研究を...
●子どもの言語習得研究から「生きた知識」について考える
―― 皆さま、こんにちは。今回は今井むつみ先生に『学力喪失 認知科学による回復への道筋』(岩波新書)についてお話を伺ってまいりたいと思います。今井先生、どうぞよろしくお願いいたします。
今井 皆さま、こんにちは。今井むつみでございます。今回はよろしくお願いいたします。
―― よろしくお願いいたします。先生、この本もたいへん話題のご本ということで、私も実は今井先生の最初に読んだ本がこのご本だったのですけれど、最初に私の拙い感想を申し上げます。
最初のほうは、実際どれだけ今のお子さんが学力で苦しんでおられるかという実例が5章にわたって展開されていて、それ自体とても興味深いですし、「ああ、なるほど、こういうところで引っかかるのか」とか、「あっ、こういう理解のされ方をしてしまうのだなということで、興味深いお話ではあったのですけれど、何より驚きましたのが特に第6章です。
いちばん最後に「まとめ」というものが付いているのですけれど、ここから後、(つまり)第6章の「まとめ」から第7章、第8章と読んでいくにつれまして、私個人の感想でいいますと、あたかも小さいお子さんが言葉を覚えていって、その抽象化をしていくような過程といいますか、物事を理解するというのはそういうことだったのだなということが手に取るように分かる。この分かる喜びに近いものを覚えまして、たいへん印象深かったのです。先生、今回このご本のご執筆のお心というか、それはどういうものになるでしょうか。
今井 私はもともと認知科学の研究者で、教育学を専門にしていますとはとても言えなくて、もっと基礎的なところで子どもがどのように言語を学んでいるのかということをずっと研究してきたのです。(つまり)心理学の実験をしながら、ずっと子どもの言語習得について研究をしてきました。
その中でずっと思っていたのは、子どもの言語習得というのは人間の学び、特にその使える知識、私は「生きた知識」とこの本(『学力喪失』)でも言っているのですけれど、生きた知識を習得するとはどういうことなのかという、そのすごく大事な問題にとても大きな示唆を与えてくれると、ずっとそう思いながら子どもの言語習得について研究を...
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