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古き良きヨーロッパのキリスト教社会が克明にわかる名著

渡部昇一の「わが体験的キリスト教論」(1)古き良きキリスト教社会

渡部玄一
チェロ奏者
情報・テキスト
『わが体験的キリスト教論』
(渡部昇一著、ビジネス社)
渡部昇一氏には、若き頃に留学したドイツでの体験を記した『ドイツ留学記(上・下)』(講談社現代新書)という名著がある。1955年(昭和30年)から3年間、ドイツに留学した渡部昇一氏が、その留学で身近に接したヨーロッパ文明のあり方について論究した見聞録だが、下巻は、見事なキリスト教社会論になっている。当時のドイツにはまだ「古き良きキリスト教社会」が息づいていたが、若き渡部昇一氏は、その奥深くにまで入り込み、そこで出会った人々や事柄から、キリスト教社会の内側がどうなっているのかを、生き生きと描き出したのだ。このたびその下巻が『わが体験的キリスト教論』(ビジネス社)というタイトルで復刊されるにあたり、長男・玄一氏に父の著書にまつわるお話をうかがった。(全6話中第1話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:10:52
収録日:2021/08/06
追加日:2021/10/23
タグ:
≪全文≫

●長男が最も愛した渡部昇一の名著が復刊


―― 皆さま、こんにちは。本日は渡部玄一先生にキリスト教についてのお話をうかがいたいと思っています。先生、よろしくお願いいたします。

渡部 よろしくお願いします。

―― 以前、渡部玄一先生にテンミニッツTVの対談にご登場いただいたときに、お父様の渡部昇一先生のご本の中で一番面白く印象深く読んだのが『ドイツ留学記』という本だというお話をいただきました。今回は、そのお話を詳しくおうかがいできればと思います。上巻のほうは主にドイツ留学体験についてで、下巻のほうはキリスト教社会についてですね。

渡部 そうですね、ドイツで父が思いつき、考え、悟ったことです。上巻にもいろいろな考えは入っていますが、自分の体験談全般が主です。下巻では、それらの体験から得た自分の考えを、また新たに体験したことを紹介しながら、特にキリスト教について書いています。

 父は当時、キリスト教の中でもカトリックに入信していたので、カトリックとプロテスタント(ドイツでは「エヴァンゲリッシェ」と呼びます)の違いについて考察しています。それが西洋全体を理解するのに非常に大切であるということを悟った経緯が克明に書かれているのが、下巻です。

―― 今般、その下巻が『わが体験的キリスト教論』というタイトルで再刊されるとお聞きしています。そこでぜひ今回、下巻の内容を中心にお話をおうかがいできればと思っています。


●非常に規範的だった留学生・渡部昇一


―― 今、おおまかなご紹介を玄一先生からお話しいただきましたが、そもそもどういうところが面白いとお感じになられたのか、お話しいただけますか。

渡部 そうですね。父の本の中で本当に好きな本は何冊かあるのですが、この本は特別です。というのは私も留学をしていて、アメリカに6年間いましたし、その後1年ほどドイツにいたことがあります。ドイツに行く前には、この本を読んでいました。

 最初の留学体験は1990年代でした。当時は留学する日本人も多く、「留学は楽しい」というのが一般的な認識でした。私の場合は音楽ですから、つきたい先生がいて、その先生につくために留学するということで、目的がはっきりしていました。そのため、留学生活はそこそこ実りがあったと思います。

 そのとき、ニューヨークにはカラオケバーなどがあり、そこに毎日入り浸っている人たちにも会いました。その後、地方のインディアナ大学にも1年ほどいきました。誤解のないようにお伝えすると、そこで出会う留学生の多くは目的をしっかり持って真面目に取り組む人たちでしたが、そうではない人も多かったわけです。

 「なんであなたたちは、ボーイフレンドをとったとられたみたいなことをして、毎晩毎晩日本人同士が何を盛り上がっているんだろう」という気持ちにさせられることもあり、くだらないというか、「何のために留学をしているのだろう」と思ったりもしました。

 というのは、父の留学記を読むと、1955年から58年あたりで、戦後10年ほどたった1950年代の留学の模様がまことに真剣なものだからです。留学記に書かれている父は、子どもの私が言うのもはばかられますが、留学生として非常に規範的です。まさに「留学生として、こうあったら実り深いだろう」と思われる留学生活をしていたことが、克明に書かれているのです。


●お客さまを大事にするドイツの風習、その恩恵を受けた渡部昇一


渡部 まず、現地の人と積極的に交じり、徹底的に現地の言葉を勉強する。あらゆる招待に応じ、あらゆる機会に手紙を書いて、不義理をしないように努めるわけですね。しかも、猛勉強もしていたという感じが(その部分はあまり書いてはいませんが)伝わります。

 父は英文学の専攻で、上智大学を卒業した後は当時最良の道だった米国留学を望んでいましたが不本意ながら果たせず、ひょんなことからドイツに行くことになったわけです。そこから第二外国語のドイツ語を一生懸命に勉強して、英文学の論文をドイツ語で書いて、ドイツで博士号を取っています。その勉強量は想像するに膨大なわけです。

 そうしながら現地に溶け込み、夜になるとダンスをし、音楽を奏でて、当時の「古き良きドイツの人たち」から歓待された様子が伝わります。ドイツ人は非常にお客さまを大事にする風習が残っていたので、その恩恵を思い切り受けています。ソーセージなど、いろいろな食べ物も出てくるし、読んでいて楽しい。ということで、上巻が非常に面白かったのです。

 そのまま読み続けて下巻にいくと、その後の著作物の方向性を決定するような気づきや思弁的なことがいくつか紹介され、それはまた知的興奮を覚えるものでした。そのようなことから、この『ドイツ留学記』という本は、私が個人的に知っている父という人間が書いた...
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