●現代アメリカになお根深く残るアイルランド問題
中西 アメリカという国を考えるときに、(前回話したカトリックへの差別感が)複雑に絡んできます。宗教の話から少し民族の話になりますが、アイルランド問題だけはアメリカ理解に絶対不可欠です。たとえばアメリカの歴代大統領で、ジョン・F・ケネディが初めてカトリック教徒でアメリカ大統領になったときには、センセーショナルな報道をされました。今から60年以上前のことです。
ですけれど、アイルランド人がアメリカの大統領になるということ、「アイルランド人といえどもプロテスタントならまだ許せるが…」ということが、非常に頭の古いイギリス、イングランドの人たちには、当時はありました。私は1960~1970年代にイギリスにいましたが、ケネディに対してあまりいい感情を示さないイギリスの人たちは存在していました。
それがなぜなのか、当時は分かりませんでしたが、イングランドにとってのアイルランドは、古い時代の戦前の日本、あるいは戦後でもしばらくはあった日本人の朝鮮半島に対する差別感といいますか、旧植民地に対する偏見や差別感と一脈通じるものがあるかもしれません。実際、韓国の学者がよく私たちにアイルランド問題の理解を促すために、「(イギリスとアイルランドは)日韓関係と似ているのだ」と教えてくれたりします。
それは別にして、いずれにしてもアイルランド人にとってアメリカに移住するということは、「イギリスを見返すためにアメリカに行って出世するのだ。金持ちになるのだ。大地主になるのだ。土地を取り上げたイングランド人を見返してやるのだ」という、ものすごい怨念が大西洋を渡っていって、ケネディ家を築いたり、あるいはレーガンもそうです。レーガンはカトリックではありませんでしたが、やはりアイルランド移民の子孫ですね。そして、バイデン氏もカトリックで、アイルランド移民の子孫ですね。
●『風と共に去りぬ』でアイルランド移民の感情を理解する
中西 この怨念を理解するのは非常に難しいのですが、あえて日本人に分かりやすく説明するならば、『風と共に去りぬ』という名作があります。ハリウッド映画にもなりましたが、あそこに描かれている通りです。
つまりあれは、アイルランド移民が本国でのイングランド人からの迫害を逃れて、アメリカに移住した話です。その移住先がたまたま南部だ...