●為替相場の動向を正しく理解するための用語
皆様、こんにちは。養田でございます。
今回は、1ドル140円などで実際に取引されている名目為替レート、実質為替レート、購買力平価など、さまざまな種類の為替レートの為替水準をあらわす指数などから、円の価値や日本の競争力、購買力がどう変化しているのかを考えていきたいと思います。
こちらのページをご覧ください。皆様は、報道等で「50年ぶりの円安」という言葉を聞いたことがあると思います。2022年あたりから耳にする機会が増えました。しかし、50年前のドル円レートは1ドル300円程度です。(収録時の)2023年7月中旬時点での為替レートは1ドル140円程度ですから、50年前に比べれば十分円高ではないかと思うかもしれません。
また、このような話の際には、「実質為替レート」あるいは「購買力平価」などの言葉も出てきます。何気なく使われている言葉ですが、これらはどんな意味を持つのでしょうか。そして、これらの概念と実際の為替レートを比べることにどんな意味があるのでしょうか。
本日は、これらの論点に対する解説、検証を行いつつ、改めて円の価値、日本の競争力、購買力について考えていきたいと思います。
●為替レートと物の値段を見ることで「円の価値」を測る
次のページをご覧ください。今申し上げたことを考えるにあたって、まずはよく耳にする日米のビッグマックの価格を通じて整理をしていきたいと思います。
ここで見ていくのは、2国間の為替レート、そして物の値段の双方がどの程度変化しているかです。この両方の変化を同時に見ていくことで、本日の主題である「円の価値」の測り方が見えてきます。
この表は、アメリカと日本のビッグマック、為替レートを比較するものです。分かりやすく概念を理解するため、現実の価格動向を参考に、A時点、B時点の価格、それぞれの時点の為替レートをキリのいい数字で比較していきます。
想定の内容は、Aの時点で、アメリカのビッグマックは左の写真の下にある通り3ドル、B時点では5ドル、日本ではそれぞれ300円と400円です。そのときの為替レートは、真ん中の表の左にある通り、それぞれ1ドル90円、140円とします。
こうした状況で、B時点における「実質」為替レートを考えてみます(「実質」為替レート指数は、1ドル140円などの名目為替レートに物価の変化を勘案し、さらに指数化したものです)。
A時点での為替レート、1ドル90円を基準に、B時点の「名目」為替レートは1ドル140円で、円の価値が下落しています。加えて、B時点までのビッグマックの価格上昇率は、アメリカ66.7パーセントに対して日本は33.3パーセントで、アメリカのほうが、値上がり幅が大きくなっています。この物価上昇率の差を勘案して円の価値を表したものが「実質」為替レート指数です。アメリカのほうが、物価が上がっているので、実質的には円の価値が落ちており、それを指数化してどの程度下落しているのか分かりやすくするのです。
こうして計算すると、円のドルに対する実質的な価値は、A時点を100としてB時点では51.4で、半分近くまで下落していることが分かります(名目為替の円の下落率、上段の表左下の35.7パーセントに対し、実質為替の下落率はその隣にあるように48.6パーセントです)。
●円の価値、競争力、購買力を評価するための実質為替レートと購買力平価
一方、購買力平価はどうでしょうか。購買力平価は一物一価を前提に、同じ物が同じ値段になるような為替水準のことです。A時点でのビッグマックはアメリカで3ドル、日本は300円ですから、1ドル100円で双方が等価になります。これが購買力平価です。B時点ではアメリカ5ドル、日本400円ですから、1ドル80円で均衡します。
この購買力平価を基に、実際の為替レートがどの程度、割高、あるいは割安に乖離しているかを考えていきます。この例では、A時点で実際取引されている名目為替1ドル90円というのは、購買力平価1ドル100円対比で、表の一番右の11.1パーセント割高、B時点では逆に42.9パーセント割安に乖離していると評価できます。購買力平価は、2国間の同じ物を基準としたときに、為替レートがいくらなら均衡するかです。そして実際の為替レートは、そこからどの程度乖離しているのかを見ていくためのベースになるものです。
もう一度整理すると、実質為替レート指数は、ある時点と比べ物価動向も加味した上で、円の価値が時間の経過とともにどう変化しているのかを表しています。一方、購買力平価は、ある時点において同じものが同じ価格になる為替水準を表しています。
このように、...