インフレ社会への転換と日本経済の行方
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
賃金上昇の格差が経済を活性化!?最適なインフレ論の真相
インフレ社会への転換と日本経済の行方(2)賃上げの問題と最適なインフレ論
伊藤元重(東京大学名誉教授)
「停滞と安定の時代」といわれる20年以上のデフレ社会が終焉を迎え、インフレ社会へと移行する日本経済。その大きな変化の中で重要なのは賃金についてである。賃上げの問題は実体経済、とりわけ企業経営に非常に大きな影響を与えるからだ。そこで注目すべきは「最適なインフレ論」と呼ばれるもので、賃金上昇の格差によって新陳代謝が進み、それが経済を活性化するという議論だ。そこにあるのは「日本の絶対賃金は非常に低い」という現実である。この問題を企業の経営者がどれだけ自分ごととして捉えているか。今後の動きに注視する必要がある。(全2話中第2話)
時間:12分39秒
収録日:2023年11月1日
追加日:2023年12月19日
カテゴリー:
≪全文≫

●「停滞と安定の時代」の終焉


 皆さんご存じのように、日本は20年以上デフレ的社会で、私はよくこれを「停滞と安定の時代」といっています。停滞しているという意味では非常にまずかったわけですが、結果的に非常に安定していたということです。非常に興味深いのは、この間に賃金も物価もあまり変わらず、金利もほとんどゼロに近い状態でへばりついている状況で経済が動いてきたのが、ここへ来て大きく変化してきたことです。

 変化の背景にはいろいろなことがありますが、50年か100年に1回あるかないかという大きな変化として、デフレ社会からインフレ社会に変わろうとしています。

 一つはウクライナ情勢に象徴される地政学的なリスクがグローバル化を大きく変え、石油価格や天然ガスの価格を上げてきたということだと思います。もう一つはコロナ禍という世界的な感染症の波及の中で需給のバランスが崩れ、労働市場をはじめとしていろいろなところで物価上昇が起こってきたことです。

 これで、物価がどう動いていくのか。それによって日銀の政策がどう変わっていくのか。為替では、円安がいつまで続くのか、それとも円高にシフトしていくのか。金利はどうなるのか。いろいろなことに非常に関心があって、それぞれについて見ることが非常に重要なのですが、今日はその中で私が一番重要だと思う賃金について、お話しさせていただきたいと思います。

 なぜ賃金をあえて重視するかというと、賃金が上昇していくようなプロセスになってくると実体経済、特に企業の経営に非常に大きな影響が出てくるからです。今回は、賃金に焦点を絞って、少し議論させていただきたいと思います。


●30年ぶりの春闘賃上げが意味するもの


 ご案内のように、今年(2023年)3月の春闘で30年ぶりに賃上げが実現しました。春闘で賃上げが実現したのは30年ぶりですから、賃金上昇は顕著なのですが、一般論として見ると、物価が上がるのに対して賃金の上昇は少し遅れて出てきます。なので、現状では物価上昇率のほうが賃金上昇率よりも高い。つまり実質賃金は下がっていくという現象が続いているわけです。

 このように物価が上がっていく中で実質賃金が下がると、消費には当然マイナスの影響が及ぶわけですから、「このままではまずい、賃上げが必要だ」という議論が社会に広がっているわけです。

 来年(2024年)の春闘の賃上...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
お金の回し方…日本の死蔵マネー活用法(1)銀行がお金を生む仕組み
信用創造・預金創造とは?社会でお金が流通する仕組み
養田功一郎
グローバル環境の変化と日本の課題(1)世界の貿易・投資の構造変化
トランプ大統領を止められるのは?グローバル環境の現在地
石黒憲彦
日本人が知らないアメリカ政治のしくみ(1)アメリカの大統領権限
権限の少ないアメリカ大統領は政治をどう動かしているのか
曽根泰教
墨子に学ぶ「防衛」の神髄(1)非攻と兼愛
『墨子』に記された「優れた国家防衛のためのヒント」
田口佳史
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(1)習近平の歴史的特徴とは?
一強独裁=1人独裁の光と影…「強い中国」への動機と限界
垂秀夫
内側から見たアメリカと日本(1)ラストベルトをつくったのは誰か
日本でも中国でもない…ラストベルトをつくった張本人は?
島田晴雄

人気の講義ランキングTOP10
習近平―その政治の「核心」とは何か?(1)習近平政権の特徴
習近平への権力集中…習近平思想と中国の夢と強国強軍
小原雅博
内側から見たアメリカと日本(5)ヒラリーの無念と日米の半導体問題
大統領選が10年早かったら…全盛期のヒラリーはすごすぎた
島田晴雄
熟睡できる環境・習慣とは(1)熟睡のための条件と認知行動療法
熟睡のために――認知行動療法とポジティブ・ルーティーン
西野精治
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(3)認知バイアスとの正しい向き合い方
知ってるつもり、過大評価…バイアス解決の鍵は「謙虚さ」
今井むつみ
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(7)不動産暴落と企業倒産の内実
不動産暴落、大企業倒産危機…中国経済の苦境の実態とは?
垂秀夫
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(4)全てをつなぐ密教の世界観
密教の世界観は全宇宙を分割せずに「つないでいく」
鎌田東二
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(1)内戦と組織動乱の構造
カーク暗殺事件、戦争省、ユダヤ問題…米国内戦構造が逆転
東秀敏
歴史の探り方、活かし方(4)史実・史料分析:秀吉と秀次編〈上〉
史料読解法…豊臣秀吉による秀次粛清の本当の理由とは?
中村彰彦
日本の財政と金融問題の現状(1)財政赤字の何が問題か
日本の財政は本当に悪いのか?将来世代と金利の問題に迫る
木下康司