●「日本病」にかかり「衰退途上国」となってしまった日本
今、日本円が非常に弱くなってしまったというお話をさせていただきました。ではなぜ、日本円がこれほど弱くなってしまったのかというと、これは日本経済が弱くなってしまったということを表しているかと思います。
現在、日本は「日本病」と呼ばれる症状に陥っているといわれることがあります。これは一体何かというと、3つの「低」と1つの「高」に特徴づけられると考えられています。
1つ目の「低」は、先ほど説明をさせていただいたように物価が低い、安い国になってしまったということです。では、2つ目の「低」は何かというと、「低成長」です。日本経済はこの30年間ほど、ずっと元気がない状態が続いています。
ここで図をご覧いただきたいのですが、こちらは1人当たり名目GDPについて、世界における日本のランキングを表したものです。
一国の経済規模を表す指標としてGDPがあるわけですが、経済規模は人口に左右されます。人口が多ければGDPは大きくなる傾向にあるわけです。そこで国民1人ひとりがどのくらい豊かなのかを知るために、そのGDPを人口で割ったものがよく使われます。これが「1人当たりGDP」と呼ばれるものです。
「日本における1人当たりの名目GDPが世界の中で第何番目なのか」を表したものが、この図です。縦軸は順位を表していて、上に行くほど順位が高く、下に行くほど順位が低いということです。図を見ていただくと分かりますが、1990年代、日本は世界ランキングのトップ5にほとんどの年で入っていました。
ところが2000年代に入ると、ランキングがどんどん落ちていってしまったのです。そして2021年には、28位まで低下しています。日本は先進国ですけれども、ここまで順位が落ちてしまっているということで、最近では「衰退途上国」と呼ばれることもあります。経済がかなり凋落してしまっていることが、この図から分かると思います。
1人当たりのGDPだけが低下しているのではないかと思われるかもしれませんが、実はいろいろなデータが、日本の経済は元気がないということを示しています。
もう一つ、図を用意しました。スイスに「IMD」と呼ばれるビジネススクールがあるのですが、このIMDがいろいろなランキングをつけていて、その中に「世界競争力ランキング」と呼ばれるものがあります。この世界競争力ランキングの推移をプロットしたものが、この図です。この統計が始まるのが1989年で、当時日本は堂々の第1位だったわけです。先ほどの1人当たり名目GDPと同じように、1990年代を通じてだいたい上位5位に日本は入っていました。
ところが2000年代に入ってくると、このランキングがどんどん低下していき、2022年には34位まで落ちてしまいました。一方、図からも分かるように、中国がかなりランキングを上げてきています。
このように、日本経済が非常に弱くなってしまったということが、いくつかのデータから分かってくるわけです。
●日本経済の凋落の象徴は「上がらない賃金」
この日本の低成長を象徴しているものが、「上がらない賃金」であるといえるのではないのかと思います。
そこで日本の賃金の推移を確認しておきたいと思います。日本の賃金は、実は1997年をピークに上がっていない状況が続いています。これを図で説明させていただきます。
この図は、日本の月給と時給を1990年から2022年までプロットしたものです。灰色の線が時給で、ブルーの線が月給です。若干、時給と月給で動きが違うのですが、ともに1990年代の前半はずっと右肩上がりで、賃金が上がっていました。ところが1997年をピークに、月給はずっと低下をたどります。
現在の水準がだいたい88くらいになっています。つまり、ピークから1割程度下がった状態が続いているということです。時給で見ると、2012年頃から若干、回復傾向にあるわけですが、それでもピークにようやく追いつくということで、過去25年間ほど日本の賃金はずっと低迷をしていることが分かると思います。
ちなみに、海外と比較をすると、かなり様子が違うことが分かります。こちらの図は、年間の賃金の推移を主要国で比べたものです。日本の賃金は1997年にピークだと申し上げましたが、仮に1997年の賃金を100としたときに、その後、賃金がどう推移しているのかを、G7+韓国で見た図になっています。赤い線が日本のものですが、見ていただくと分かるように、この25年間、ほとんど賃金が上がっていない状況です。
翻って、他の先進国はどうなのか。例えばアメリカ、...