●正社員より給料の低い非正規社員が増加した
(労働生産性が伸び悩んでいる)もう1つのファクターを説明させていただきたいと思います。先ほど、賃金の決定要因に「労働市場の構成」が影響するというお話をさせていただきました。これは一体何かというと、日本で非正規社員の方が増加をしているということです。図をご覧いただきたい。
この図は、日本の非正規雇用者の数の推移、それから割合の推移を表したものです。今から40年ほど前の1984年は、日本全体で非正規社員の数は600万人ほどで、雇用者全体で占める割合(シェア)は15パーセント程度でした。つまり7人に1人が非正社員という状況だった。その後、非正社員が右肩上がりで増えていき、現在はその割合が4割近くになっています。ですから、かつてはどちらかというとあまりスタンダードな働き方ではなかった非正社員が、今では標準的な働き方になっているということです。
そこで非正社員が増えたことが、どう賃金に影響したのかという話になってくるわけです。正社員と非正社員の賃金の違いを比較してみたいと思います。
この図は、正社員と非正社員の時給を比べたものです。線が4本ありますが、一番下の線と一番上の線を見比べていただきたい。一番上の線が正社員の時給になっていて、一番下のグレーの点線が非正社員の時給です。
正社員の時給はほぼフラットで、動いていないことが分かります。一方、非正社員の賃金は、2012年頃から徐々に上昇傾向にはある。とはいえ現在、正社員と非正社員は給料を比べると、非正社員の給料は正社員の6割程度になってしまっているということで、かなりギャップがあります。
ここで考えたいことは、経済全体で非正社員の割合が増えてきて、そして彼らのお給料は相対的に低い。相対的にお給料が低いほうが経済全体で増えてきたので、平均的な賃金が伸び悩むということが起こっています。ですから、日本で賃金が上がっていない背景には非正社員が増えたという点があって、これがまさに構造問題という話になってくるわけです。
今後賃金が上がるのかどうかということを考える際には、この正社員と非正社員の賃金ギャップが解消する、あるいは労働市場の構造が変わってくるといったことがないと、なかなか賃金が持続的には伸びてこないということがいえるのではないのかと思うわけですね。
●日本を支えた「日本型雇用慣行」はもう通用しない
非正社員が増えたという背景や、日本の賃金が伸び悩んでいる背景にあるのは、「日本的雇用慣行」です。日本的雇用慣行とは一体何かといいますと、年功賃金、終身雇用、あるいは企業別労働組合と3つほど特徴があるわけです。この日本的雇用慣行ですが、かつては日本の成功の秘訣だといわれて、海外からもかなり賞賛された優れた仕組みだったといわれています。
ところが、日本的雇用慣行がどうやって生まれたのかというと、生まれた時期は戦後の高度成長期です。高度成長期に、終身雇用や年功賃金が生まれて、それが多くの企業に普及し、やがて定着して、プラクティス(慣行)となったわけですが、前提条件があったといわれています。それは何かというと2つあって、1つが「持続的で高い経済成長」、もう1つが「豊富な若年人口」です。この2つがあって初めて日本的雇用慣行は成立したといわれています。
簡単に説明させていただくと、経済が持続的に、しかも高く成長しているということは、労働需要が非常にたくさんあるわけです。企業としては、人のクビを切るどころの話ではなく、新しい人をどんどん雇い入れて、モノをつくったりサービスを提供したりして儲けていこうということで、労働需要がものすごくあったのです。
労働需要だけあってもこれは成り立たないわけで、労働供給がなくてはいけない。当時は人口構造が若かったので、労働供給があったわけです。
この旺盛な労働需要と豊富な若年人口によって、うまく労働市場が回っていった。結果として企業は、人のクビを切らずにひたすら雇い入れるということなので、長期雇用は定着しました。同時に経済が成長していますから、年々、お給料が上がっていくということで、それがやがて年功序列の賃金につながるわけです。
このように、「持続的で高い経済成長」と「豊富な若年人口」の2つがあって、日本的雇用慣行は成立したといわれています。残念ながら、その前提条件はすでに壊れてしまったわけです。
先ほど、日本病の1つとして「低成長」というお話をさせていただきましたが、日本の経済成長を振り返ってみると、日本的雇用慣行が成立した高度成長期は、経済成長率が9パ...