●日本にもついにインフレがやってきた
宮本 テンミニッツTVをご覧の皆さん、初めまして。東京都立大学の宮本弘暁です。今日は皆さんと一緒に、日本経済の現状と課題、今後について、一緒に考えていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
日本経済は最近、ここ1年ほどで少し景色が変わってきたところがあります。どういうことかというと、日本経済は長年、物価が上がらない=デフレに苦しんできました。ところが、2022年の春頃から、徐々に物価が上がる=インフレが日本でも進んできたのです。
世界を見渡しますと、約50年ぶりに世界で同時にインフレが発生しているという状況です。アメリカ、ヨーロッパを中心に物価がかなり上がっているわけですが、そういった中で、長年物価が上がらなかった日本でも、物価が徐々に上がってきたというところなのです。
いくつか具体的な例を申し上げますと、マクドナルドのハンバーガーが、2022年の春から2023年の春までの1年間にかけて3回、値上がりしています。2022年3月はハンバーガーが1個110円だったのですが、2023年1月には170円にまで上がるということで、約1.5倍にハンバーガーの値段が上がっているわけです。
値段が上がったのはハンバーガーだけではなく、食料品全般の値段が上がっている。例えば、帝国データバンクの調べによりますと、2022年は主要食品メーカーだけで2万品目が値上がりしている。平均の値上がり率が約14パーセントということで、バブル経済が崩壊した後の過去30年間で、類を見ない値上げになっているのです。
食糧品だけではなく、電気料金もかなり上がっていて、人々の生活を苦しめているという面があります。東京電力が平均的な家計の電気使用量として挙げている「標準プラン」(「スタンダードS」と呼ばれる)を見ると、2023年1月は月額平均で電気料金が1万1000円でした。これは2年前の2021年と比べると、およそ倍になっているということで、かなり値上がりをしているというところです。
●先進国で日本だけがデフレに陥った
今、個別にハンバーガーの値段や電気料金を紹介させていただきましたが、ここで図をご覧いただきたいと思います。
物価水準を見る際によく使う「消費者物価指数」と呼ばれるものがあります。「CPI」と呼ばれるのですが、いろいろな財、サービスの平均的な価格の推移を見たものです。
図は、1990年から2023年5月までのインフレ率(消費者物価指数の上昇率)をプロットしたものです。ご覧いただくと分かりますが、1990年代の初頭は、物価上昇率は3パーセントほどありました。ところが、それが徐々に低下してきて、2000年代に入るとマイナスの領域に入っていきます。これが、まさに「デフレ」と呼ばれる部分です。
およそ2000年代はこのマイナスの領域にずっとあるわけですが、それが上がってくるのが2022年の春ごろということで、そこからは急激に右上がりになっていきます。2023年1月は消費者物価指数が4.3パーセントと、過去30年間の中でも最も高いところまで上がっていったということで、足元でインフレが進んでいるところです。
ところが、2000年代を見ていただくと分かるように、日本はデフレでした。そこで、少しそのデフレの様子を見ていただきたいと思います。もう一つ、図を用意しています。
こちらはインフレ率の国際比較です。1995年から2012年までの物価上昇率を主要国で見たものですが、日本だけがマイナスの値になっている=デフレであるということです。ところが、他の国を見ていただくと分かるように、だいたい物価上昇率が2パーセント前後になっている。第2次世界大戦後、先進国でデフレを経験した国は、実は日本だけなのです。
では、なぜ日本がデフレになってしまったのかということですが、これはいろいろな説があります。例えば、お金の量が少なかったのではないか、人口動態が影響しているのではないかなど、諸説あるわけです。おそらくいろいろな要素が重なってデフレになったということだと思います。いずれにしても、デフレで日本はモノが安くないと売れない国になってしまったということなのです。
●価格競争がデフレを深刻なものにした
ここで一つ、興味深いデータがあります。経済産業省が出しているデータなのですが、人々が1年間にどれくらい衣料品にお金をかけているのかというものです。1991年を100とすると、2017年にはその数字が57と、4割ほど減っているのです。これは消費者がモノにお金をかけなくなったということを端的に表しているかと思います。
その背後に何があったかというと、価格競争です。安くなければモノが売れないということで、企業はどんどん...