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世界で一人負け…「安い国」日本と急性インフレの現実

衰退途上国ニッポン~その急所と勝機(1)安いニッポンと急性インフレ

宮本弘曉
一橋大学経済研究所教授
概要・テキスト
現在、世界中でインフレが発生し、日本でもここ1年ほど急激なインフレ(物価上昇)が進んでいる状況である。とはいえ日本は、長い間デフレに苦しみ、経済が停滞してきた過去がある。しかも戦後、デフレを経験したのは日本だけなのだ。その間、価格競争が行われ、その結果、物価が下がり、賃金が下がる。賃金が下がるから物価が下がる、というループに入ってしまった。ということで「安い国」になってしまった日本だが、なぜこのような事態が起こったのか、デフレに沈んだ日本の姿をさまざまなデータをもとに解説しながら考える。(全6話中1話)
時間:17:29
収録日:2023/06/30
追加日:2023/10/31
≪全文≫

●日本にもついにインフレがやってきた


宮本 テンミニッツTVをご覧の皆さん、初めまして。東京都立大学の宮本弘暁です。今日は皆さんと一緒に、日本経済の現状と課題、今後について、一緒に考えていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

 日本経済は最近、ここ1年ほどで少し景色が変わってきたところがあります。どういうことかというと、日本経済は長年、物価が上がらない=デフレに苦しんできました。ところが、2022年の春頃から、徐々に物価が上がる=インフレが日本でも進んできたのです。

 世界を見渡しますと、約50年ぶりに世界で同時にインフレが発生しているという状況です。アメリカ、ヨーロッパを中心に物価がかなり上がっているわけですが、そういった中で、長年物価が上がらなかった日本でも、物価が徐々に上がってきたというところなのです。

 いくつか具体的な例を申し上げますと、マクドナルドのハンバーガーが、2022年の春から2023年の春までの1年間にかけて3回、値上がりしています。2022年3月はハンバーガーが1個110円だったのですが、2023年1月には170円にまで上がるということで、約1.5倍にハンバーガーの値段が上がっているわけです。

 値段が上がったのはハンバーガーだけではなく、食料品全般の値段が上がっている。例えば、帝国データバンクの調べによりますと、2022年は主要食品メーカーだけで2万品目が値上がりしている。平均の値上がり率が約14パーセントということで、バブル経済が崩壊した後の過去30年間で、類を見ない値上げになっているのです。

 食糧品だけではなく、電気料金もかなり上がっていて、人々の生活を苦しめているという面があります。東京電力が平均的な家計の電気使用量として挙げている「標準プラン」(「スタンダードS」と呼ばれる)を見ると、2023年1月は月額平均で電気料金が1万1000円でした。これは2年前の2021年と比べると、およそ倍になっているということで、かなり値上がりをしているというところです。


●先進国で日本だけがデフレに陥った


 今、個別にハンバーガーの値段や電気料金を紹介させていただきましたが、ここで図をご覧いただきたいと思います。

 物価水準を見る際によく使う「消費者物価指数」と呼ばれるものがあります。「CPI」と呼ばれるのですが、いろいろな財、...
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