葛飾北斎と応為~その生涯と作品
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役者絵からキャリアを始め、西洋の画法を取り入れながら読本の挿絵を大ヒットさせた葛飾北斎。その後、北斎が描いていった『北斎漫画』や浮世絵などの数々は、海外に衝撃を与えてファンを広げるほどのものになっていく。60代は、中風を患い、妻にも先立たれてしまう試練の時代でもあった。しかしそれを乗り越え、娘の応為(お栄)にも支えられて、さらに新たにベルリンで作られた藍色の染料(ベロ藍)なども大胆に導入して、『富嶽三十六景』「神奈川沖浪裏」の高みへとさらに昇っていくのである。(全4話中第2話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツ・アカデミー編集長)
時間:13分04秒
収録日:2025年10月29日
追加日:2025年12月6日
≪全文≫

●西洋画に踏み込む50代


―― 前回の講義で、50代までの北斎ということでお話を聞いてまいりましたが、それからどうなっていくかというところです。

堀口 はい。

―― また非常にこれまでの講義でも、大道芸的なことをやったり、町で描いたり、しかも絵のスタイルも西洋風を採り入れたり、日本画を採り入れたり、漫画のようなものを描いたりと、すでにもう多彩な北斎ですが、さてここからどうなるかというところです。

堀口 前回の講義のところで、『北斎漫画』という後世の西洋の芸術界に与えた影響が大きかった作品のお話をしました。この『北斎漫画』を描いた頃の北斎は、北斎の同時代に生きている外国人のファンもいたのです。

―― もうすでにそうなのですね。

堀口 そうなのです。こちらが、北斎が描きました、江戸の日本橋の長崎屋というところに滞在しているオランダ商館の一行、つまり外国人が江戸で滞在している場所を描いた1枚なのです。鎖国中でも日本と交流があったオランダの商館長は、普段は長崎の出島にいるのですけれど、4年ごとに江戸にやってきて、将軍に挨拶をするということになっていたのです。

 そのオランダ商館の一行に付いて江戸にやってきたドイツ人の医師のシーボルトという人がいまして、この人が大の浮世絵コレクターだったのです。ちょうどこの頃50歳を過ぎて、『北斎漫画』を出版し江戸の人気絵師であった北斎にもこの浮世絵を注文して、祖国に持ち出していたのです。

 シーボルトというと、日本史の授業的には伊能忠敬の日本地図を外国に持ち出そうとした、いわゆるシーボルト事件が起こって、国外追放になったということで有名です。つまり当時の日本人は外国人と接触を持つというのは、かなりリスキーだったわけです。ただ北斎はその危険を顧みずに、弟子たちとともにシーボルトからの制作を請け負って、娘の応為もそのうちの何点かを担当したと考えられています。

―― もう応為さんのほうもこの頃から関わっているのですね。

堀口 はい。制作には関わっています。

―― そういう形になるのですね。本当に前回の講義でも、いわゆるヨーロッパにおける浮世絵ブームの話もしましたが、もうすでにその下地というか、だんだんと少しずつヨーロッパに出ていくという局面になってきたわけですね。

堀口 そうなのです...

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