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●ハラスメントを助長している組織風土と心理的安全性の欠如
では、この改善の中でハラスメントを助長する企業文化にはどんなものがあるのだろうということを、今日は簡単にご紹介したいと思います。
私の考えでは、ハラスメントを助長している組織風土には、「全体主義」「無関心風土」「属人思考風土」「圧力的雰囲気」、それから「心理的安全性の欠如」があります。こういうところがハラスメントを助長している組織風土ではないかと思います。
では、最初の「全体主義」についてです。全体主義は個人の利益よりも組織や、その共同体の持っている利益を優先しましょうという考え方です。これは、哲学者のハンナ・アーレントが『全体主義の起源』という書籍を出されたことで非常に有名になってきた概念かと思います。
全体主義の概念の悪さを説明するにあたって何がいいかと思っていましたが、やはりハンナ・アーレントが分析しているアイヒマンですね。彼がなぜホロコーストのような残忍な事件の責任者になってしまい、ああいう事件を起こしたのかを分析したのがハンナ・アーレントです。『エルサレムのアイヒマン』という本があり、そこでは、アイヒマンはあのような残忍な事件を起こしているので(彼は)いかに極悪でいかなる悪人だったのだろうかということが検証されています。
しかし、裁判を傍聴したハンナ・アーレントからすると、アイヒマンは一般的なサラリーマンの中でも気の弱いようなタイプの人であり、ごくごく普通の人でした。そういう人間が、こうした非常に残忍な事件の首謀者ではなく責任者となっているというところに、一つのポイントがあると。
書籍にも書いていますが、どんなに普通の人間であっても、または善意を持った人だとしても、こうした権威への服従が起こってしまうと。そんなところが人間の弱さではないかと考えられていて、そのように権威への服従をさせてしまうのが、全体主義の悪さです。
本人の善意や思想に関係なく、全体主義においては共同体が持つ思想に侵されていってしまう。どんなにいい思想や普通の考えを持っていた人間でも、悪の思想に侵されてしまう。そうした観点から、全体主義というものは、ハラスメントを助長しやすい文化にある根底といいますか、一つの要因になっていると考えられるかと思っています。
2つ目は「無関心風土」です。ハラスメントは、基本的にやはり閉鎖された空間で行われやすい。他人の目や他人の監視が非常に重要なのですが、そういうことがないところでは当然ハラスメントが行われやすいのです。また、他人が人のそういうところを見過ごしてしまったり、自分には関係がないと思ったりするところでは、非常に孤独にもなってきます。それが、ハラスメントという文化もしくは行為を助長してしまうことがあるかと思います。
3点目が「属人(思考)風土」です。属人風土は、社会学者・心理学者の岡本浩一氏が、いわゆる企業の不正や不祥事を研究する対象の概念として提唱してきた思考です。基本的には、意思決定や何かを決める際において、何のためにやっているのかということではなく、むしろ誰が言ったかということが基準となってしまうような風土のことをいっています。
そのため、いわゆる評価なども好き・嫌いなどで決まったり、何かのミスやエラーが起きたときに、なぜ起きたのかという原因に焦点が当てられるよりも、誰がやったのかというところに思考が向いてしまう組織が「属人思考風土」と呼ばれています。このような思考があると、ルールなどよりも人に帰属されやすいので、いわゆるハラスメントが起きやすいと考えられています。
近年、パーソル研究所が行われた調査の中でも、「属人風土は、ハラスメントを非常に助長する風土である」といわれている結果が拝見できると思っています。
4点目が「圧力的雰囲気」です。これは読んで字のごとくなので、イメージしやすいかと思います。非常にプレッシャーの高い状況、過度なプレッシャーを感じている中では、当然ハラスメントが起きやすい文化、ないし風土が出来上がってしまうというところは、いわずもがなと思います。
5点目が、今日、本題に掲げている「心理的安全性(の欠如)」です。心理的安全性は、何度かお伝えしているように周囲に対して率直に物事を言える風土です。こういう風土がないところは、やはりハラスメントと非常に関係性があるといわれています。
上記の4つ、「全体主義」「無関心風土」「属人思考風土」「圧力的雰囲気」といったところも、結局根底にあるのは「心理的安全性がない」ことです。それにより(ハラスメントが)起こってしまう風土というところで、関連性は非常に高いかと考えています。


