●力を増す一党支配体制
皆さん、こんにちは。東京大学名誉教授の小原雅博です。今日は国家主席であり、総書記でもある、習近平の話をしたいと思います。この講義は10分なので、彼の人となりとしてスライドを少し見ていただきまして、また時間があれば詳しくお話をしたいと思います。
彼はいろんな地方で勤務をしてきていて、特に福建省は長かったです。
習近平の政治の特徴として言えるのが、党があらゆる分野に全面的に出てきたということです。上に「領導(リンドウ)」と書いてありますが、これは「強制力を伴った指導」という意味です。専門家がよく「党国体制」という言葉を使いますが、党が国家を裏から統治する、つまり党が全ての分野において決定権を持って政治を進めていく体制です。
例えば人民解放軍があります。天安門事件の時にも明らかになりましたが、これは国軍ではなく党軍です。それまでにいろいろな議論はありましたが、最終的には国軍ではなくて党軍という位置づけです。全てが党の存続のために動いているのが習近平総書記の下で、非常に明確になってきています。
今9500万人ぐらいの党員がいて、その頂点に習近平総書記がいるピラミッド体制になっています。「集団指導体制」というのが胡錦濤総書記の時代には言われましたが、今はまさに彼が党の「核心」となって、権力を習近平のところに集中しています。例えば「小組(しょうそ)」という、いろいろな委員会を作ります。いろいろな分野において、彼が全てを取り仕切るということです。特に軍についてはいろいろな改革をします。
例えば七つの軍区があったのを、五つの戦区にします。「軍事主席責任制」はもともとありましたが、実際には2人の制服の副主席が責任を持って軍を見ていました。それを軍事委員会の主席である習近平が軍をしっかりとコントロールするようになります。軍が習主席に絶対に忠誠を誓う体制を作っていきます。
彼は地方で勤務してきたと先ほど少し言いましたが、そうした地方で仕えた部下をどんどん抜擢をして、それでもって自分の権力基盤を固めてきたのが、これまでの流れです。
●習近平思想と中国の夢
2017年の党大会で、党の憲法でもある党の規約に、習近平思想を盛り込みました。「思想」という言葉を使ったのは毛沢東以来です。これは鄧小平の時は「理論」と言っているので、重みがあります。
では、習近平思想とは一体何なのかについて、議論はたくさんあると思います。まず、2018年の3月に全人代で憲法改正をしました。国家主席は2期までしかできませんでしたが、この規定を削除して、3期目に布石を打ちました。今、習近平の一強体制ができているということです。
習近平がある意味で大きなアジェンダとしているのが、「強くなる」ことです。毛沢東が「立ち上がり」、鄧小平の「豊かになった」時代精神と比較すると、これから中国は「強くなる」というのが、まさに彼が言う「強国強軍」の中国の夢です。もちろん、平和的な発展だと言っていますが、主権や安全、発展利益といった核心利益に触れるようなことは絶対に譲りません。そういったものを守るためにも強い軍隊を持たないといけないということを彼は主張して、やっています。
例えば中国が世界に影響力を広げていく中で、「人類運命共同体」と言っていて、その具体策として「一帯一路」をやっています。いわゆる戦後アメリカが主導して作り、維持してきた国際秩序とは違った秩序に、中国が少しずつ変えつつあるのではないかというのが今の一つの大きな議論になっています。
下から3つ目に「外部勢力のいじめや抑圧」を許さず、「教師のような偉そうな説教」を拒絶すると書いてあります。これはまさにアメリカを念頭に置いていて、2021年7月1日に行われた中国共産党の創立100周年の天安門壇上からの彼の演説の中に、こうした言葉が入っています。
香港の問題については、安定のほうが主権を優先すると言っています。一国二制度の中では、一国のほうが重要だということです。それから、「台湾独立のたくらみ」は絶対に許さない、粉砕すると強く言っています。
同時に、中国は改革開放の中でいろいろな矛盾も出てきていて、人民のニーズが変化してきています。発展が不均衡で不十分なので、新しくて、もっとより良い、素晴らしい生活が欲しい人たちに、十分に応えられていないと彼は言っています。やはりそのために今は量の成長ではなくて、質の成長を求めていると言っています。また、異論は排除するというので、監視社会を作っていきます。さらに今回、小康社会を実現したと彼は言っています。