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十住心とは何か――迷いの世界から大日如来の心の世界へ

空海と詩(3)十住心と大日如来の心の世界

鎌田東二
京都大学名誉教授
概要・テキスト
空海
出典:Wikimedia Commons
十住心とは、十の意識のグラデーションないし心の十段階のことで、『秘蔵宝鑰』はそれを教相判釈的に解説している。中でも第十は大日如来の心の世界、すなわち秘密荘厳心が最上にして最大の包的な心の頂点と考える。今回は十住心の十の段階について具体的にひも解いていく。(全7話中第3話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:09:22
収録日:2024/08/26
追加日:2024/11/16
キーワード:
≪全文≫

●仏教に至る前の三つの段階から


鎌田 それら(『秘蔵宝鑰』)の各段階の序文に詩文が入ります。

 十の段階を具体的にひも解くと、「異生羝羊心」(いしょうていようしん)、「愚童持斎心」(ぐどうじさいしん)、「嬰童無畏心」(ようどうむいしん)、「唯蘊無我心」(ゆいうんむがしん)、「抜業因種心」(ばつごういんじゅしん)、「他縁大乗心」(たえんだいじょうしん)、「覚心不生心」(かくしんふしょうしん)、「一道無為心」(いちどうむいしん)、「極無自性心」(ごくむじしょうしん)。最後の第十段階が「秘密荘厳心」(ひみつしょうごんしん)です。

 これらをコンパクトに説明すると、一番低いのは輪廻する迷いの世界の中にあるものですから、「羝羊」という羊をイメージした用語を使っています。異生羝羊心は、まだ倫理的な目覚めも持っていないような、迷いの一番底にある低い段階の意識、心の構造です。

 そこに、他者に対する思いやりの心を持つような、次の段階が出てくる。愚かなる童が「持斎」の心、人に施す心を持ってくるので、第二段階は「愚童持斎」。いわば倫理の始まりということです。

 第三段階になると、だんだん悟りの世界に憧れたり、探求したりする心が生まれてくる。仏教的にいうと「発心」という宗教心や探求心の目覚めです。ここからだんだん、宗教や哲学的な世界に入っていこうとするわけです。

 そのうちに、「諸行無常」や「諸法無我」とかいったような仏教哲学の哲理に目覚め、自分の存在には実体性がないと気づいていく。それが「唯蘊無我心」です。仏教の根本的な考えは、自己=セルフイメージについてのもので、私たちは本来的自己があるように思っている。しかし、自分があると思っているから、いろいろな執着や迷いが生まれてくる。そういうものは実は幻想であり、「無我」すなわち実体性はないのだ、という。生成変化し、縁起によって全部できているというのが仏教の認識になる。こうして、自我の実体性を否定する状態を第四段階に持ってきた。


●無常と無我から始まり、深まっていく仏教哲学


―― それが第四というのは、今のわれわれからすると、かなり高度なレベルに感じます。それが、まだ第四なのですね。

鎌田 はい。それまでの3段階では、例えばバラモン教やウパニシャッド哲学でのようなものが最初...
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