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「なぜ人は部屋を片付けられないか」を行動分析学で考える

人の行動の「なぜ」を読み解く行動分析学(1)随伴性

島宗理
法政大学文学部心理学科教授
情報・テキスト
人間の行動の「なぜ」を読み解くための「行動分析学」について解説するシリーズレクチャー。第1話では、島宗理氏が「なぜ人は部屋を片付けられないのか」というテーマで、行動分析学の基本的な考え方を論じていく。私たちは人間の行動を性格や能力、態度などで説明しがちだが、そうすると「個人攻撃の罠」や「循環論」に陥ってしまうという。それはいったいどういうことなのか。(全7話中第1話)
時間:05:51
収録日:2019/02/21
追加日:2019/08/18
カテゴリー:
≪全文≫

●行動分析学と「個人攻撃の罠」


 法政大学の島宗理です。今日は人間の行動の「なぜ」を読み解くというテーマで、いくつかお話をしようと思っています。

 まず、今回「人はなぜ部屋を片付けられないのか」というテーマをいただいています。部屋を片付けることが苦手な人、得意な人というのがいると思いますが、それが得意な人から見ると、部屋を片付けられない人はだらしがないとか、きちんとしていないとか、親のしつけが悪かったとか、いろいろなことを言われてしまうのではないかと思います。人によるとは思うのでいますが、「いつも部屋が片付いてきれいな状態で暮らしたいなぁ」と思っているけれども片付けられない、という人も多いのではないでしょうか。

 私が専門としている「行動分析学」という心理学では、通常の心理学とは実は大きな違いがあり、人の行動の理由を人の心や能力、性格といったもので説明しない、という特徴があります。ちなみに、そのように人の心や能力、性格といったもので説明をすることを、われわれは「個人攻撃の罠」と呼んでいます。


●言葉を言い替えているだけの「循環論」


 スライドをご覧ください。例えば、この例でいうと、片付けられない理由を「だらしがない」と説明してしまうと、どうすれば片付けられるかという解決をするための考えに及ばなくなってしまいます。つまり、行動の改善に対して妨害的に働くということがあるということです。

 もう1つ理由があります。次のスライドを見てみましょう。実は、人の行動をその人の性格とか心、能力で説明しようとすると、「循環論」というものに陥ってしまうのです。循環論とはどういうことかというと、例えばこの例では、「なぜ片付けられないのか」と片付けられない人の行動を見てその理由を推定するわけですが、それに対して「だらしがないから」という説明をしたとします。

 次に「だらしがないのは、どうして分かるのですか」と質問をしてみます。つまり、だらしがないことの根拠を探すということになります。そうすると、今度はそれは「片づいていないから」ということになります。そこで、「なぜ、片付いていないのだろう」ともう1回聞いてみると、「だらしがないから」ということになります。

 これはどういうことかというと、片付けられていないという行動を見て、それを「だらしがない」という性格とか心の要因で説明をしているのですが、性格が「だらしがない」というのは行動を見ているだけなので、実をいうと片付けられないことの説明をしているのではなくて、言葉を言い替えているだけだということなのです。


●人の行動を環境との関係性で考える~「随伴性」~


 ですから、この循環論にはまってしまうと、実はどうして片付けられないかというのは永久に分からないことになります。どうして片付けられないのかが分からないと、もう一度先ほどのスライドに戻りますが、下の方に書いてある「どうすれば片付けられるだろう?」というところに、「だらしがないから」と言っている限り達しないわけです。

 実は、今回いただいているテーマは「部屋を片付けられない」ということなのですが、人間の行動のありとあらゆる場面で、こういう課題が生じています。自分の子どもが勉強しないのであれば「やる気がないから」とか、英語が苦手だとすると「英語の能力がないから」とか、運動が苦手だとすると「運動音痴だから」というように、われわれは行動の説明をどうしても性格や能力、態度など、どちらかというと人間の中にある要因で説明しようとする傾向があります。

 これはどうしてなのかというと、そのように育ってきているからという、背景になる文化のようなものがあるからなのです。しかし、実際にその行動の原因を探してみようということになると、そうした私たちの日常的な思考が非常に妨害的に働くということがあります。

 なので、私が専門としている行動分析学という心理学では、「コペルニクス的展開」と私は呼んでいるのですが、人の行動を心の中の要因ではなく、行動と環境との関係性で考えてみようとしています。これを専門用語では「随伴性」といいます。
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