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行動分析学は平均的な人ではなく実際の人の行動を研究する

人の行動の「なぜ」を読み解く行動分析学(7)心理学の罠

島宗理
法政大学文学部心理学科教授
概要・テキスト
人の行動と環境の関係性を見る際に気をつけてほしいのは「心理学の罠」だ。心理学の罠とは、行動の理由を能力や性格のせいにしてしまう「個人攻撃の罠」の一種だが、なぜその罠に陥ってしまうのか。平均的人間像としてつくられる概念との違いも含め、解説する。(全7話中第7話)
時間:07:41
収録日:2019/02/21
追加日:2019/09/26
カテゴリー:
≪全文≫

●「心理学の罠」に注意する


 今回は、「なぜ、周りの目が気になって、自分が思っている行動ができないのか」というお題をテンミニッツTVからいただいています。これは特に日本人の行動心理の特性として、承認欲求とか同調圧力が高い、あるいは自己肯定感が低いというのは、いったいどういうことなのでしょうか、という課題です。

 ご覧いただいて分かるように、私はこういう言葉は文字を見ながらでないと分からないくらいで、あまり身近に使っていないのです。どうしてかというと、行動分析学という心理学では行動の原因を心には求めずに環境と行動との関係性に求めるということを、これまで繰り返しお話ししてきました。実は、承認欲求とか同調圧力といった心理学的な用語、あるいは実際の心理学の用語も含めて、それらについて私は「心理学の罠」と呼んでいます。

 心理学の罠は「個人攻撃の罠」の一種なのですが、その個人攻撃の罠に出てくるような「能力や性格のせいにする」というところを、もう少し専門的というか科学的な匂いのするような言葉を使うことで個人攻撃の罠をしかけてしまっている例だと思ってください。


●「サービス残業」に関する循環論


 では、スライドを見てみましょう。これは「なぜ、サービス残業をするのか」ということに関して、「“同調圧力”が高いから」という説明をした時のことを考えて書いてみました。“同調圧力”のところにダブルコーテーション(“”)が付いていることに注目していただきたいのですが、これは心理学的なキーワードになっているところです。心理学的なキーワードというと「なるほど、そうか」と思わせてしまうかもしれません。これが学問の力というものかもしれません。

 ところが、これも個人攻撃の罠であるという点に変わりないということに気付いていただきたいのです。「“同調圧力”が高いから」と言っている限り、「どうすれば皆、定時に退社できるのだろうか」というところになかなか発想が及びません。どうしてかというと、個人の特性だからと思ってしまっているからです。

 ここでもう1つスライドを見てみましょう。実は、これは循環論になっているのです。「なぜ、サービス残業するのだろうか」「“同調圧力”が高いから」「どうして、“同調圧力”が高い...
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