●表に出せない「妬み」という感情
―― では、山浦先生、続きましていよいよ各論ということになります。まずは「妬み」。
山浦 ああ、来ましたね(笑)。
―― 妬みというテーマから行きたいと思いますが、おそらく人間でいて妬みを覚えたことがない人は、きっとあまりいないですよね。
山浦 うーん。そうかなと思いつつも、なかなか思い当たらないという気にもなっているかもしれません。
―― それは、どういうことですか。
山浦 妬みというのはかなり古くからあるようです。しかし、それは道徳的によろしくない、そういう感情を表現する自分が嫌になる、ということがいろいろよぎって、皆なるべく隠そうとする。あるいはそれを認識しないように過ごす術を持っている。そのようにいわれていますので、なかなかピンと来ない方もいらっしゃるかもしれません。
―― そうなのですね。でも、確かに「隠さなきゃ」とか、「こういうことを思っちゃいけないんだよね」と思いながら、やはり心ではどうしても「何か違う」と感じてしまうケースが、皆さん結構おありではないかというところもあります。
山浦 おそらく、そうでしょう。
―― そこが、難しいわけですね。表面には出てこないけれども、人間としてついついやってしまうことがあると。
山浦 そうですね。いいマネジメントの手法を使っているのに、なかなかいい方向に回転していかないようなとき、もしかすると、そのチームのどこかにそういう感情が眠っていたり潜んでいたりするかもしれないということです。
こういうあまり意識していない感情、心の揺らぎというものは、ご自身の身体的な部分に思いがけず悪影響を及ぼすこともあります。それで、いつの間にか病気になりがちだったり、心が病んでしまったり、あるいは対人関係がどうしてもうまくいかなくなるようなことが生じてしまうことも今、分かってきているところです。
●いい妬みと悪い妬みの2種類がある
―― そのあたり、実は「見えない世界」だった部分にあえて光を当てることで、原因が見えてくるところもあるでしょうね。あとは、前もって結論部分を言ってしまうようですが、「なくせばいいというものでもない」ということになるのですよね。
山浦 そうなのです。そういうものは、一見あまりきれいな感情とは見えないものですよね。けれども、どうして古くからずっとそれを人間は持っているのだろうということを、私自身も研究し、この本(『武器としての組織心理学 人を動かすビジネスパーソン必須の心理学』)を書きながらあらためて認識をしています。それで、もう少し掘り下げなければならないと思って調べていくと、そういうネガティブな感情があるからこそ、危険を察知することができ、リスクを回避することができるのです。
ですので、妬みというネガティブな感情を持たずに、「よかったわ、幸せだわ」とは本当は言っていないかもしれないのです。危険を察知する、事前に感じ取る、ということがもしかすると足りていないというか、もしかすると、もう少しそこがあると、よりよく対処できたかもしれないということもあると思います。
―― 私が以前読んで非常に印象深かったのが、松下幸之助氏の「嫉妬を狐色に焼け」という言葉です。
山浦 面白い表現ですね。
―― 要は「真っ黒になっちゃいけないんだ」と。嫉妬の心、妬みの心で心が真っ黒になってはいけないのだが、ほどよく狐色に焼くと、それが進歩といいますか、向上心にもつながる。そのようなことを言われていましたが、そういう要素もあるのですよね。
山浦 そうですね。絶妙な表現でいらっしゃると思います。妬みと聞くと、多分皆さんすぐに「悪さをする感情」というふうに思われたでしょう。でも、最近の研究では、いい妬みと悪い妬みの2種類があるという話になっています。
ですので、松下幸之助氏が「狐色に」ほどよくと言われたのは、いい妬みを持ったときの状態をおっしゃっているのだと思います。
―― これはぜひもっと具体的に伺っていきたいと思います。なかなか見えづらい嫉妬、妬みというものが、例えば日常生活や会社生活で命取りになるケースというのは、先生がご覧になっていて、どういうケースになりますか。
山浦 例えばスポーツチームでいえば、一生懸命頑張って、「自分こそがレギュラーの座を」と思っていたところが、それほど成績が上がりきっていない仲間が、レギュラーの最後の一席を取ってしまった。
そのようなときに、悪い妬みだけで付き合っていると、おそらく「その選手がどうすればうまくいかなくなるか」という策略を練っていくようになると思います。そういう気持ちは、結局自分自身に跳ね返ってくることになっていて、そちらの情報処理ばかり...