●組織になぜ「心理学」が必要か~見えにくいところこそ一番の根幹~
―― 皆さま、こんにちは。本日は山浦一保先生に組織心理学の話を伺いたいと思います。山浦先生、どうぞよろしくお願いいたします。
山浦 よろしくお願いいたします。
―― 山浦先生は『武器としての組織心理学 人を動かすビジネスパーソン必須の心理学』(ダイヤモンド社)というご本をお書きになっています。組織心理学というお話で、組織になぜ心理学が必要なのかというところですが、いきなりこの議題から入ると…。
山浦 なかなか難しいご質問を、ありがとうございます(笑)。
―― いえいえ(笑)。なぜ組織に心理学が必要か、先生はどのようにお考えでいらっしゃいますか。
山浦 まず、組織が何で動いているかということを考えたときに、何と考えられますか。
―― 組織は当然、人でできていますので…。
山浦 そうですね。では、人は何で動くのでしょう。
―― これは難しいですが、モチベーションということですよね。 会社であれば当然、給料をいただきたいというのもあるでしょうし、自分の自己実現をしたいということもあるかもしれません。多分いろいろな動機をお持ちの方が集まっているところですよね。
山浦 そうですね。私自身が考えておりますのは、「組織は人で動き、人は心で動く」。
―― 心で動くと。
山浦 はい。そう思っています。おっしゃったようなモチベーションがあり、お給料が上がったり下がったりすることによって心が揺れ動く。その揺らぎの部分で、パフォーマンスが上がったり下がったりもしていくし、人付き合いが良くなったり悪くなったりもする。
そういうことを考えると、できるだけ組織をうまく円滑に運営したいときには、やはり人の心を知るための心理学が必要だろうと思い、組織心理学についていろいろ現場を見せていただいています。
―― さらに、このご本で非常に印象深かったのが、いわゆるビジネス書では見かけない「妬み」という言葉です。心理学の世界では当然「妬み」はあるのですが、あまりクローズアップされることはありません。そういう話を真正面から取り上げておられるあたり、非常に印象深い本だと思いました。
山浦 ありがとうございます。
―― こういうものを入れていかれたこころ(意図)というのは、どういうところにあるのでしょうか。
山浦 はい。私たちがとても前向きに過ごしたいと思っているのは理解していますので、そのために、できるだけモチベーションをアップさせて楽しく過ごせるように願いますし、研究もそのように進んできました。しかし、日々の活動の中ではどうしてもうまくいかないことがあります。
そうだとすると、やはり前向きでばかりはいられない自分、あるいは職場がある。そう考えたときに、それは何か。なかなか見えないところ、なんとか見ないようにしてふたをしようとしているところが悪さをして、顔を出そうとしたときに、心が暗くなったり、組織がおかしな方向に向いたりすることはあるだろう、と。
そういう見えにくいところこそ、もしかしたら一番根幹にあるのかもしれない。そう思い、最近はそういうダークサイドの部分を取り上げたいと思って、研究も進めているところです。
●多様化と個の対応――人間関係を築くことが難しくなった時代背景
―― 山浦先生はご研究をされる中、いろいろな企業の現場もご覧になり、さらに例えば大学(立命館)では、いろいろなスポーツのご助言などもされています。(それらの中で)組織心理学をどのように実践されるか、というところで、今おっしゃったような「マイナスの感情」というところで今日取り上げさせていただくのは、「妬み」と「温度差」、それから「不満」ということも、のちのち講義でぜひいろいろとお聞きできればと思っています。
山浦 承知いたしました。
―― ではまず、組織心理学について、今大枠のお話をいただきましたが、この本の冒頭には「今や積極的に人間関係を築くことが難しい時代になってきました」という問題提起がございます。このようにお書きになった意味は、どういうところですか。
山浦 おそらく一つ二つ、大きな問題があると思っていますが、一つは「多様化」ということです。ダイバーシティは、いろいろな方々あるいはいろいろな価値観をお持ちの方々と、多様な展開をしましょうという方向性だと思います。それがご自分と合う方もいれば合わない方もいて、価値観のズレや違いについても感じやすくなっている世の中だと思っています。
ですので、そことの距離感をどう取っていけば、一番ぴったりくる付き合い方になるのか、ということを皆さんが多分試行錯誤していらっしゃることでしょう。その結果、なかなか人付き合いは難しいというようになっているのではない...
(山浦一保著、ダイヤモンド社)