●『貞観政要』に学ぶ、部下からの進言の重要性
皆さん、こんにちは。三谷宏治です。『オリエント 東西の戦略史と現代経営論』。今回は東洋的リーダーシップです。
今、経営幹部の研修などで受けているのが『貞観政要』です。
『貞観政要』は唐王朝の2代目皇帝の太宗、李世民と部下たちの言行録で、簡単にいうと、部下たちが盛んに諫言、痛いことをいうのです。すると太宗がそれを聞き入れ、いい政治をしました。単にそれだけの内容なのです。
ではなぜそれだけの本が受けているのかというと、上下関係や序列をもとにした日本の組織やリーダーシップのあり方にフィットしているからです。近年、特に欧米流の組織やリーダーシップの考え方が入ってきていますが、良くも悪くも日本の伝統的な土壌とは合わない部分があったりします。『貞観政要』はその意味で日本人の腑に落ちやすく、受け入れられやすいのです。
日本の社長たちは「三権の長」といわれ、強い権力を握ってきました。しかもそこに日本の論語的、儒教的価値観が加わると、下は遠慮したり、忖度したりして、上に厳しいことは言えません。そうすると、上の全能感がどんどん高まって、最初はまともだったとしても、徐々に堕落してしまうケースが後を絶ちません。また、そういう人に限って高齢になっても影響力を持ちたがります。そういう中で、下から諫言を受けて、自分のやることを正していく。そんな麗しい関係を築き得た皇帝と臣下の話は、特に日本のリーダーたちに心底響くようです。
どういう人を諫言役にしたかというと、元敵なのです。魏徴、そして王珪という2人が有名な諫言役ですが、2人とも太宗を殺そうとした敵の参謀でした。けれど、投降してきたので、太宗は許して自分の諫言役にしたのです。2人は恩に感じて、どうせ死んだ身だから本当のことを言ってやろうと直言し続けました。まさに「人生、意気に感ず」なのです。その結果、魏徴は太宗に対して数百回も諫言しましたが、そのほとんどを太宗も聞き入れるという理想的な君臣関係が結ばれました。
諫言を聞いて改めるべきところは改める皇帝と、親愛と感謝をベースに死ぬ気でガンガン諫言する臣下。この姿が今の経営者たちの心に響くのです。...