●法治と徳治:組織の2つの統治方法
三谷宏治です。『オリエント 東西の戦略史と現代経営論』から組織と統治を紹介します。
中国古典では組織の統治方法として法治(法による統治)と、徳治の2つの極がありました。
まず、法治は『韓非子』に代表され、法と権力、賞罰を用いて組織を統制し、成果を上げる考え方です。法治は軍隊組織が起源で、トップダウンの指揮で、組織が一枚岩となり勝利を目指します。しかし、問題は兵士のモチベーションが基本的に低いことです。誰も死にたくないし、殺したくない。ゆえに『孫子』のような兵家では、戦場に兵士のモチベーションをむりやり高めるために、兵士を窮地に追い込む「背水の陣」などの方法を用いるわけです。
『韓非子』の法治は人間を弱い存在と捉え、賞罰で動かすことを重視しますが、これに依存しすぎると組織は助け合いがなくなり、権力闘争に陥りやすくなります。
一方、『論語』に代表される徳治はリーダーが徳を備え、信頼を築くことで組織を運営する考え方です。しかし、徳治に依存しすぎると、今度は指示待ちや忖度が横行し、異論が言えない環境になることがあります。
これらの長所と短所を補うために、歴史的には法治と徳治を組み合わせたハイブリッドな組織が理想とされてきました。例えば、組織の設計は法治に基づいて行い、運営は徳治を活用するという方法です。組織の基盤を法治で固めつつ、実際の運用は信頼関係を重視し、協力し合う形で進めます。こうすることでチームの成果を最大化できますが、問題が起きた際には法治に戻り、不祥事を厳しく処断する必要もあります。
また、チーム作りの際には知らない者同士を集めて、互いを見張るシステムを導入し、運営では信頼感を醸成する方法などもあるでしょう。それでも不祥事が起きたら法治に基づいて問題を処理し、再び徳知的な運営に戻せばいいのです。
●法治と徳治のハイブリッドで成功したアルフレッド・スローン
20世紀の前半、GMという巨大自動車会社は顧客ターゲット別の5事業部に分かれ、見事な分権経営を行っていました。その中核が中興の祖、アルフレッド・スローンでした。彼はGMに買収...