●智者の慮――利害の両面を踏まえた戦略を考えておくことの重要性
そこで、「是の故に、智者の慮は、必ず利害を雜(まじ)ふ。利を雜へて務むれば、信ぶ可し。害を雜へて患(うれ)ふれば、解く可し。是の故に、諸侯を屈するには害を以てし、諸侯を役するには業を以てし、諸侯を趨(はし)らするには利を以てす」です。いいことを言っています。
「是の故に、智者の慮」、本当に智に長けた、要するに頭が図抜けて戦略的にできているような、そういう智者の熟慮です。それは「必ず利害を雜ふ」、つまり利ばかりを考えないで、害や危険な状況、損な状況、不利になる状況、失敗しがちな状況というものをちゃんと知っているという人が、要するに「智者の慮」なのです。
そして「利を雜へて務むれば、信ぶ可し」、したがってこの害のとき、絶体絶命のピンチのときでも、こうすれば逃れられて、こうすればむしろこれが利になるということです。害が一転して利になるという、逆転の法則もあるということを考えなければいけないのです。
また、「利を雜へて務むれば」というのは、前提が害のとき、不利になっているときですが、次の「害を雜へて患ふれば」は、利のとき、断然有利になっているときで、そのときに嬉しくなってしまって、それが逆転することは、どのようにしてそうなるのかを知らなければならないのです。敵軍のリーダーが1枚上手ということもあり得るわけです。
したがって、こうなったら危険だということ知らないで、有利になった、有利になったといって喜んでいるようではだめなのです。ですから、害ということを考えなければいけないのです。
今の状況でいえば、去年までの会社のようにうまくいっているからガンガン行けというときに、ものが分かっているリーダーは、いや、世の中はガラッと不利になってしまうかもしれないということも考えて、ただ行けというのではなく、こういう用意もする、こういう準備をしながら行かなければいけない、と考えてやっていた会社(のほう)が今、ものすごくいいわけです。ここでは、そのようなことをいっています。要するに「害を雜へて患ふれば、解く可し」で、害が解消される、不利が解消されるといっているのです。
そして「是の故に、諸侯を屈するには害を以てし」、つまり、諸侯、周りの競合を屈するには、害、そ...