●情報をオープンにして上下関係をなくす「データ民主主義」
三谷宏治です。『オリエント 東西の戦略史と現代経営論』の中で、今回は超分権的組織を紹介します。
Amazonで買い物をすると、「○○とよく一緒に購入されている商品」というおすすめが出てきます。お金を払う前に、もう一段の衝動買いを狙っているわけです。これを提案したグレッグ・リンデンは当時、上司たちから徹底的に否定されました。デモまで作ったのに、テストすら許されませんでした。憤慨したリンデンは実地テストを勝手にやりました。レコメンデーション機能ありとなしで実際の売上の差をとったのです。そして、その機能がAmazonにもたらす膨大な利益を明らかにして、上司たちの反対意見を一気に葬り去りました。リンデンは、この行動によってAmazon最初期のレコメンデーションエンジンの開発者の栄誉を得たのです。
バラク・オバマの選挙運動を支援したグーグルのダン・シロカーは、そういったデータの力による上下関係の消失を「データ民主主義」と呼びました。
実地の比較テストの結果データの前に、身分や地位の上下はなく、全ての人類は平等なのです。だから選択肢を出して、作って、試してみればいいのです。頭の固い上司の許可を得ることも、皆で事前に合意をとることも、顧客を無理に説得することも必要ありません。データ民主主義の下で超分権的な試行錯誤型経営がもう始まっているのです。
組織での上下関係やタコツボ化は、指揮命令権、「言うことを聞かなければダメだ」、もしくは「他部署は口を出すな」だけではなく、情報格差によっても生まれます。大して秘密でもないのに重要な情報は上司だけが持っているので、(部下は)上司に勝てません。売上の詳細データや顧客別・商品別の収益データなどは、たしかに他者に漏れてはいけない秘密でしょう。営業本部の中でも、それらの情報に触れられる人は一部にされています。でも、本当は関連する全ての社員が分析したら、もっと面白いインサイトが得られるのです。
サイボウズなど、いくつかの企業ではそういった情報がオープンにされています。社内の...