●AIは融通の利かないエリート新入社員
今回は、AI(人工知能)の活用に関するお話をします。
まず重要なこととして、AIに関しても、前回のデータの話と同じように、単独で有効活用できることは本当にまれです。AIが何もかも全てやってくれるということは完全にSFの世界であって、そんなことはありません。AIを活用する際にも、経験の有効活用が必要となります。
よく使う例で説明すると、融通の利かないエリート新入社員と、AIはよく似ています。新入社員には、とにかく指示待ちの人がいっぱいいると思います。こういった社員は、目的やゴールを決めてあげれば、しっかりと働いてくれます。しかし、こういった社員は、目的を決めてもらえず、とにかく「うまくやってみてください」「何かすごい経営をやってみてください」と言われても、ほとんどできないでしょう。AIも同じで、人間が、経営者が、正解を与えてあげる必要があります。これがAIの本質です。
現在のAIは、データの解析の精度はすごく優れています。AIが扱えるデータは非常にリッチになっていて、さまざまな複雑なデータも扱えるようになっています。これを松尾豊氏(東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻特任准教授)は、「眼を獲得した」と表現しています。しかし、AIが行えるのはデータの解析であって、それを活用するのは人間です。
●人が先に正解を決めないと、AIは学習できない
これを説明するために、よく使っている図があります。図の真ん中にAIの有効活用があります。ここで、AIは確かに「正解」を導くのですが、AIが「正解」を導くためには、先に人間が「正解」を決めてあげる必要があります。例えば、病気のレントゲン画像をAIに判断させるならば、病気のレントゲン画像と健康なレントゲン画像を、先に人間が決める必要があるということです。そうすれば、どちらが病気の画像であるか、AIは間違えることなく完璧に判断します。
ですが、例えばAIが教師としていい指導ができるかとか、AIが立派な経営者になれるかというと、それは実は問いとして間違っています。なぜなら、いい経営とか優れた指導というものについて、人間が正解を先に定義しないといけないからです。正解を決めれば、AIはそれに向かって学習していくことができるのです。しかし、正解を決めないと、...