●AIのできることの幅もレベルも進歩してきた
人工知能の発達と、人の仕事がどのように変わっていくのかということをお話ししたいと思います。
AIと呼ばれているものがどういう定義なのかを正確に言うのは実は難しいのですが、実際かなりの発展を遂げているというのは紛れもない事実だと思います。ディープラーニングといわれているものの発達に見られるように、今までできないと思われていたようなことまでAIがやれるような時代になりました。
典型的なニュースが囲碁の世界的チャンピオンにGoogleのAIが勝ったことです。囲碁ではAIが勝つのはなかなか難しいのではないかといわれていたのですが、今や世界チャンピオンよりも強いAI が出現してしまったということで、ある意味で衝撃的なニュースを皆に与えました。AIが囲碁のチャンピオンに勝てるぐらいであれば、通常の仕事もAIがやってしまうのではないか、と皆が思い始めたということでしょう。
そうした側面から見ると、AIができる幅は広がってきていますし、かなり高度なことができるようになってきたのも事実だろうと思います。ただし、人が今までやってきたことの全てをAIでやれるのかというと、実はそこには大きな乖離があります。とはいえ、ある種特殊な分野においてAIは大きな役割を果たす、あるいは人間以上の働きをするということが、だんだんと分かってきたということだと思います。
●AI の強みを生かす条件-1.大量のデータ
今回はAIの細かい技術的な面ではなく、AIが人々の日常の仕事や業務とどういう関係があるのかというところをお話しします。
今のAI技術にとって特徴的な強みとして発揮できるのは、2つの条件がそろっているときだといわれています。1つ目は学習するためのデータがかなり大量にあることです。これは人間が必ずしも提供する必要がない場合もあり、Googleの囲碁のAIはAI同士で囲碁をプレイして、それをデータとして蓄積しさらに賢くなっていくということなので、必ずしも人間が提供する必要があるとは限りません。いずれにしても大量のデータを統計処理することによってさらに情報を得ていく、ということがAIの1つの特徴です。逆にいうと、大量な情報が手に入らない分野については、十分な力を発揮できないということになります。
●AI の強みを生かす条件-2.正解が決まっている
2つ目は、ある種の正解、やるべきことが決まっているという業務についてAIは強みを発揮できるということです。囲碁においては当然勝つことが正解です。あるいは画像診断の場合、レントゲン写真を例にとれば、これが病気の画像かそうでない画像か、ある種の正解があるわけです。それを間違いなく判断できるかどうかというのは、正解が決まっている仕事なので割とAIが得意な分野ということになります。
ところが人間の仕事の中には、実は正解を明確にすることが難しい仕事、あるいはその正解というものを明確に決めれば仕事の大半が終わったも同然のような仕事内容がかなりあります。例えば、われわれのような教師の仕事は、どういう教え方が正解かを決めるのはなかなか難しいわけです。また介護や保育の面においては、どういう介護の仕方が正解か、あるいはどういう保育の仕方が望ましいのかを決めるのは結構難しいのです。それがなかなか決まらないからこそ、日々悩んで改良しているというのが事実なのだろうと思います。言い換えると、何か「こういう教え方がある」ということを正解として決めてしまう、あるいは何か「こういう介護の仕方がある」ということを正解としてそれを素直に実現しようと決めれば、その正解的な教え方、正解的な対応の仕方をできるだけうまくやるように、ロボットなりAIなり が働く余地は随分あるということです。
しかし、正解がなかなか決めにくい仕事に関しては、ある意味で人間の方が大きな役割を果たしますし、言い換えると、正解を決めるという仕事こそが人間にとって求められている仕事ということになります。ですから、この正解を決めるという仕事、あるいはデータが十分に集まらない仕事に関しては、人間の方が大きな役割を果たすということになってくると思います。
●人間に求められる高度なコミュニケーション能力
こういう問題において1つ大きな役割を果たすだろうといわれているのが、いわゆるコミュニケーション能力です。コミュニケーションはかなり個別性が高く、またどういうコミュニケーションが正解かということもなかなか明確には決めにくいものです。そうした中、工夫しながら相手とうまくコミュニケーションを取っていくことは、人間にとって重要な仕事なので、コミュニケーションを必要とするような営業や窓口応対という部分では、人間の仕事としてかなり残るのではないかと考えられています。
ただ...