●データを解釈して評価できるのが本当の意味でのデータサイエンティスト
(前回は、データを活用するためには、データ分析を行う目的を、経営が事前に設定する必要がある、というお話をしました。)データを活用するためのもう一つのポイントは、データを分析する人が必要だということです。データを分析するデータサイエンティストがいないと、データはゴミの山にすぎません。
こう話すと、いろいろな分析ができるプログラマーが必要なのかと、多くの方はそのように思うはずです。しかし、話のポイントは実はそこではありません。データサイエンティストには、プログラマーとしての能力も重要なのですが、それだけではありません。出てきたデータを解釈して評価できるのが、本当の意味でのデータサイエンティストです。このようなデータの解釈や評価は、実態をよく分かっている人でないとできません。
このことについて、皆さんになじみのある例でお話しします。経営の財務諸表にある財務データから財務分析ができます。そうすると、在庫の回転率やいろいろな比率など、さまざまな財務指標が出てきます。ここまでは、今では自動的にプログラムでやってくれたりします。あるいは、プログラマー的な人がやってくれます。
しかし、財務分析の結果を経営に生かすのは誰かといえば、プログラマーにはできません。それは、経営のことや会社の実態が分かっていて、なぜそういう分析結果が出てくるのかが分かる人でないとできません。それが分からないと、実は、財務分析の結果は単なる数字にすぎません。
●相関関係から因果関係を導くには経営の実態を知る必要がある
少し専門的な言い方をすると、AIやデータ分析で分かることは、データの相関関係にすぎません。このデータとこのデータが同じように動いているという相関関係は出てきます。例えば、雨が降ることと売り上げが上がることが同じように動いているということは分かります。
しかし、この相関関係を示すデータから、どういう因果関係が存在するのかを特定することは、実態が分かっている人にしかできません。なぜ雨が降ると売り上げが上がるのかということは、現場をよく知っている人や、会社の経営の根幹を知っている人など、そういう人たちでなければ分かりません。
こういった実態や経営を知っている人こそが実は、必要なデータサイエンティストなのです。したがって、こういった意味でのデータサイエンティストを活用しないと、データ分析を本当の意味での経営実態に反映することはできません。
●実態に基づいてデータを整理することが決定的に重要
例えば、AIを使ってすぐに代替できるのではないかといわれているビジネスの一つに、コールセンターがあります。電話で話している内容をテープに録音してデータ化して、それを人工知能に理解させれば、人工知能でもコールセンターの業務をできるように見えます。
しかし残念ながら、それはできません。なぜかといえば、コールセンターの会話のデータには、雑多な内容の会話が含まれていて、無駄なデータが多すぎるからです。これも、会話のデータをものすごく大量に集めれば、なんとかなるかもしれません。しかし、現在はまだそれほど大量のデータがないので、無駄なデータの方が多くなってしまいます。
このような状況で必要なことは、コールセンターの実態を知っている人の知恵です。なぜかといえば、コールセンターの会話データの中には、ポイントとなる会話があるからです。「ここが分からないんだろう」とか、「こういう質問をしたらいいのではないか」といった、経験に基づいた知恵を現場の人は持っています。こうした知恵をデータ化することも重要ですが、当面の間は、こうした知恵を踏まえてデータを分析することが必要となります。
したがって、現状の実態に基づいてデータを整理することが決定的に重要になります。それができれば、会話の内容をAIに理解させて、AIに業務を代替させることができるようになるのです。
●データ分析の人と経営実態を知っている人を結び付ける組織改革が重要
同じようなことが、経営のいろいろな場についていえます。データの分析は大事なのですが、データ分析の目的が決まっていたとしても、アナリストやプログラマーだけに任せては、何もできません。そうなると、経営の実態を分かっている人とデータを分析する人とをくっつける必要があります。
しかしここで、申し上げたい重要なことがあります。会社には、一方では経営の実態が分かっている人がいて、他方ではいろいろなデータを解析している人がいます。ところが多くの会社において、この二種類の人材が離れてしまっています。経営とデータ解析が別の部門で行われていたり、プログラム開発を全く別のビル...