●技術革新が貨幣や決済に関する急速な動きを生んでいる
ここからは、ブロックチェーン、フィンテック、ICO(Initial Coin Offering)などの話に移ります。今回は仮想通貨やICO、そしてフィンテックのお話をしまして、次回ブロックチェーンのお話をします。
まず貨幣や決済に関してですが、急速な動きがあります。例えば、ビットコインの急激な価格上昇や、中国でキャッシュレス化が進んでいることが挙げられます。それから、ICOが急速に進展しましたが、今は急速にしぼみつつあります。
ICOとは、仮想通貨を発行して資金を調達することです。一時期起こった現象ですが、ベンチャーなどがIPO(新規公開株の発行)をしなくても、ICOでコインを発行すると、何百億というお金が集まる、ということがありました。
これは、実際にプロダクトは何もなく、まだアイデアのレベルにしかない人のもとに、何百億というお金が集まるという、不思議な現象でした。ですが、これに対してはいろいろな規制が入りつつあって、急速にしぼみつつあります。
●仮想通貨は通貨にはなり得ない
では仮想通貨の話をします。仮想通貨は、単なる電子データだったものが、あれだけの価値を持つようになりました。これは、技術革新としてはすごいことです。さらには、経済現象としても、非常に画期的なことだったと思います。
この変化は、おそらく元には戻らないでしょう。これからもずっと残り続けるだろうと思います。ただし、中央銀行の人たちが言っていますが、「仮想通貨」という言葉は、ややミスリーディングだということです。
現在の仮想通貨、少なくともブロックチェーンの技術を使った仮想通貨は、実際には通貨にはなり得ません。これから発展していっても、通貨として使われるようにはなりません。すごく極端な状況下、例えば非常に政情不安な国で、自国通貨がものすごく不安定な場合、取引に使われることはあるかもしれません。あるいは、国際送金にすごくコストがかかる場合、コストが低いビットコインでの国際送金を行うことがあるかもしれません。
ですが、それは特定の条件下で使われるというだけであって、本当の意味での通貨にはなりません。そこで、仮想通貨という呼び方ではなく、「仮想資産」あるいは「暗号資産」という呼び方をしようというのが、世界的なコンセンサスになっています。英語でいえば、「CryptoCurrency(クリプトカレンシー)」という言葉の代わりに、「Crypto Asset(クリプトアセット)」と呼ぶことになります。
●仮想通貨は現状では「仮想資産」という扱いにとどまる
仮想通貨がなぜ通貨になり得ないのかを、経済学の観点から学術的にお話をします。
現在のビットコインの技術では、通貨の供給量を裁量的にコントロールすることができません。これは、「マイニング」というプロセスを通じて、ビットコインが世の中に現れるからです。ただ、これ自体は、すごく面白く、そして優れたアイデアでした。
したがってビットコインは、価格変動に合わせて供給量をコントロールすることができないのです。通常ですと、物が値上がりしてきた場合には、供給量を増やして値下がりをさせます。逆に値下がりしてきたら、供給量を減らして値上がりをさせます。普通はこうやって、価格が安定します。
これは、物だけでなく貨幣にも同じことがいえます。貨幣供給量、あるいは正確にいえばマネーサプライですが、これを中央銀行が上げ下げすることで、物価は安定します。貨幣の価値が安定するからです。したがって、供給量を裁量的に変動させられることが、価格が安定するための必要条件となります。
ところが、ビットコインは仕組み上、供給を裁量的に増減できないようにしてあります。だからこそビットコインは価値を持ちました。裁量的に増やすことができると、貨幣を発行している人は、貨幣をどんどんと増やしてもうけようとします。そういった仕組みが働かないことが、価値を持った一番の原因でした。そして、価値を持った一番の原因であるが故に、そこを崩すことはできません。
ビットコインに対する需要が変動すると、価格が変動します。そして、価格が変動すると、そこに投機マネーが入ってきて、ますます価格が変動していきます。ところが、その場合にも、それを押さえ込む手段がありません。
価格変動があまりにも大きい場合、それを取引の決済の手段に使えるわけがありません。ですから、少なくとも今のビットコイン型の仮想通貨は、一般的な決済の手段にはなり得ません。それ故に、仮想資産という扱いにとどまるのです。
仮想資産とは何かというと、現状では投機の対象です。電子データ的に生み出されるものが投機の対象になるということは、技術革新の大きな成果です。しかし、それが社...