●GAFAMNTが体現する世界史的技術革新
シリコンバレーの風景を皆さんとここまでずっと勉強してきましたが、今あらためて何を学ぶかということを、最後にまとめてみたいと思います。
一つは、GAFAMNTが明らかに世界史的な技術革新を体現していること。これは産業革命に十分比肩する世界史的技術革新といえると思うのです。
19世紀頃の産業革命では、まず蒸気機関が生産・運輸・海運をまったく変えてしまった。それからモータリゼーション(内燃機関)。これは大きな航空産業をつくり、ニューヨークのような大都市をつくってしまった。その後、電気通信とITによって、効率化とグローバライゼーションが大いに進みました。
しかし、今やGAFAMNTが代表するのは第四次産業革命です。コンピュータの能力があまりに進化したため、ビッグデータ、ディープラーニング、ターゲティングができるようになった。また、ネットコミュニティができるようになり、個人を確認・確定できるようになった。そういう、これまでになかったことが起きてきたのです。
GAFAMNTは人びとの生活、社会、産業、国家など、世界全てを変えてしまっています。モバイル端末によって個人が発信できるようになると、SNSの世界になり、ネットコミュニティになる。例えばグレタ・トゥーンベリ氏というスウェーデンの16歳の少女が「世界中の気候変動政策は間違っている」と言うと、ネットを通じて数百万ではなく数千万の人がフォローするようになった。個人の発信の能力が強まり、個人がつながることができるようになったのは、人びとの生活と社会にとって目覚ましい変容です。
それから、5Gから6Gへと進む高速通信、情報共有、IoTによる産業活動の高速化・効率化にも著しいものがあります。さらにネット情報が普及すると、世界のグローバリゼーションが幾何級数的に加速化します。同時に過小評価できないのは、格差が拡大していることです。イギリスがEUから外れたりしてしまうのも、格差の拡大が背景にありますし、第四次産業革命の結果かもしれないですね。
●プラザ合意後に競争力をなくした日本、日本企業から学んだアメリカ
GAFAMNTを生み出しているシリコンバレーについては、皆さんと一緒にずいぶん勉強しましたが、その歴史を今一度振り返ってみましょう。
1950年代から70年代まで、シリコンバレーはアメリカ及び世界の半導体の生産基地でしたが、1980年代に一度、日本の半導体産業に席巻されています。アメリカの半導体産業は見る影もなく、アメリカ政府と産業界が立ち上がります。特にアメリカ政府の日本叩きはすさまじいものがありました。
本当は政治が為替に口を出してはいけないのに、プラザ合意においてアメリカ政府は堂々と口を出し、日本の円を跳ね上げて、競争力をなくさせたわけです。その背景のもと、半導体協定で半導体産業を締め付けて、腰が立たないようにします。しかも、軍・官・産・学が共同体として支援するすさまじい日本攻撃を行いました。このおかげで、日本はその後30年、腰が立っていないのです。
しかし、一方、シリコンバレーによる世界市場奪還には、もっとポジティブな努力もしています。例えば日本企業の圧倒的だった強みを徹底的に研究し、戦略要素を抽出して、アメリカ企業の競争力強化に活用したというのが、皆さんと一緒に学んだところです。
また、その後、スタンフォード大学が先端産業のビジネス化を支援します。そのために、世界でほとんど初めてといえると思いますが、総合的なエコシステムを構築して、シリコンバレーだけでなく、世界中に展開するような壮大な機構を構築しました。これは確かにアメリカの優れた面だといえるでしょう。
●アルゴリズム革命とプラットフォーマー・モデル
そういう中で育ったIT巨大企業は急速に発展するのですが、二つのことを行っています。一つは、幾何級数的に強化されたコンピュータの計算能力を活用して、AIによるビッグデータの機械学習をいち早くマスターします。その先端を切ったのがグーグルです。さらに、ビッグデータから個を確定する方法論を企業戦略に活用して、クラウドコピューティングサービスやターゲティングサービスを提供していっているわけです。
それから、プラットフォーム・モデルというビジネスモデルを開発します。これは壮大なネットワーク効果を持つため、市場を制覇しました。インターネット上の情報を消費者やサプライヤーなどに提供するプラットフォーマー・ビジネスモデル。これは複合的なネットワーク効果を持つため、情報の蓄積と顧客吸収の相乗効果をもって、とめどもな...