●IT産業を牽引するインドの原動力
「躍進するIT産業:インドの可能性と課題」というテーマで、お話をしたいと思います。
ナレンドラ・モディ首相のリーダーシップのもと、近年IT産業を中心に、インドがめざましい発展を見せています。同時に,国際的な存在感も急速に高まってきています。インドの人口構造を見ると若年層が非常に多く、日本にとってはこれからの市場として非常に大きなポテンシャルを秘めています。また地政学的にも、インドは日本にとって重要なパートナーとなる可能性があります。
われわれは、2020年1月末から2月上旬にかけてインドを訪問しました。私にとっては4回目のインド訪問となりましたが、これまでの訪問と比較しても、インドは飛躍的に発展していました。米中に次ぐ超大国になる可能性が、そろそろ現実味を帯びてきたと思うほどでした。
しかしこうした可能性と同時に、この巨大で多様なインドには、旧植民地時代の歴史的後遺症などの複雑な問題が随所に色濃く残っています。これらは、大国にふさわしいリーダーシップを世界で発揮するために克服するべき、大きな課題であるという側面も否定できないと思います。
以下、そうした論点に関する私の感想を申し上げたいと思います。
●シリコンバレーの下請けから始まり世界有数のIT産業の拠点へ
インドのIT産業は凄まじい発展を見せています。インドのIT産業は南部の都市、バンガロールを中心に、20年ほど前から急速に発展していました。しかし、近年では、インド全土に点在する主要都市にIT産業が集積しつつあり、インドのIT立国化とも言うべき現象が進んでいます。
バンガロールの世界のIT産業の中核としての急激な成長は、アメリカの西海岸にあるシリコンバレーの影響を強く受けています。20年ほど前に、シリコンバレーのいわば下請け基地としてバンガロールは発展しました。シリコンバレーでIT産業の仕事量が膨大になるにつれて、ソフトウェアなどの作業を発注する必要が出てきました。人材が豊富で、賃金が安く、さらに13.5時間の時差という条件を最大限に生かし、シリコンバレーのオフショア投資の基地として、バンガロールは発展したのです。
なぜ時差が有利な条件となったのでしょうか。シリコンバレーの技術者が、ITシステムの設計などの業務を午後5時に終えると、彼らはバンガロールの契約業者にその設計...