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インドはなぜ世界有数のIT産業の拠点へと成長したのか

躍進するインドIT産業の可能性と課題(1)下請けから世界の中心へ

島田晴雄
東京都公立大学法人理事長/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
近年、世界的にIT産業の発展は目覚ましいが、インドがその中で果たす役割は非常に大きい。そこでこのシリーズでは、インドのIT産業の発展に関して、その背景や今後の展開について詳しく解説する。第1話は、シリコンバレーの下請けから世界有数のIT産業の拠点へと成長してきた背景や、世界で活躍するインド人など、そうした人材や産業発展が生まれる基礎となった多様で複雑な競争社会の内実について説明する。(全9話中第1話)
時間:08:25
収録日:2020/04/07
追加日:2020/06/05
≪全文≫

●IT産業を牽引するインドの原動力


 「躍進するIT産業:インドの可能性と課題」というテーマで、お話をしたいと思います。

 ナレンドラ・モディ首相のリーダーシップのもと、近年IT産業を中心に、インドがめざましい発展を見せています。同時に,国際的な存在感も急速に高まってきています。インドの人口構造を見ると若年層が非常に多く、日本にとってはこれからの市場として非常に大きなポテンシャルを秘めています。また地政学的にも、インドは日本にとって重要なパートナーとなる可能性があります。

 われわれは、2020年1月末から2月上旬にかけてインドを訪問しました。私にとっては4回目のインド訪問となりましたが、これまでの訪問と比較しても、インドは飛躍的に発展していました。米中に次ぐ超大国になる可能性が、そろそろ現実味を帯びてきたと思うほどでした。

 しかしこうした可能性と同時に、この巨大で多様なインドには、旧植民地時代の歴史的後遺症などの複雑な問題が随所に色濃く残っています。これらは、大国にふさわしいリーダーシップを世界で発揮するために克服するべき、大きな課題であるという側面も否定できないと思います。

 以下、そうした論点に関する私の感想を申し上げたいと思います。


●シリコンバレーの下請けから始まり世界有数のIT産業の拠点へ


 インドのIT産業は凄まじい発展を見せています。インドのIT産業は南部の都市、バンガロールを中心に、20年ほど前から急速に発展していました。しかし、近年では、インド全土に点在する主要都市にIT産業が集積しつつあり、インドのIT立国化とも言うべき現象が進んでいます。

 バンガロールの世界のIT産業の中核としての急激な成長は、アメリカの西海岸にあるシリコンバレーの影響を強く受けています。20年ほど前に、シリコンバレーのいわば下請け基地としてバンガロールは発展しました。シリコンバレーでIT産業の仕事量が膨大になるにつれて、ソフトウェアなどの作業を発注する必要が出てきました。人材が豊富で、賃金が安く、さらに13.5時間の時差という条件を最大限に生かし、シリコンバレーのオフショア投資の基地として、バンガロールは発展したのです。

 なぜ時差が有利な条件となったのでしょうか。シリコンバレーの技術者が、ITシステムの設計などの業務を午後5時に終えると、彼らはバンガロールの契約業者にその設計をもととしたソフトウェア製作などの業務を発注します。すると、翌朝、シリコンバレーの技術者が出勤してくると、インドでつくられたソフトウェアが完成しているというサイクルだったのです。このように、シリコンバレーとバンガロールは分業と協業で、24時間、休みなくフル回転できる稼働体制を世界規模で構築し、そろって目覚ましい発展を実現したのです。

 このような状況を反映して、インドのIT産業は大量の雇用を行っています。IT業界の規模は、直接雇用だけでも約370万人です。ちなみに日本は約90万人です。さらに、インドは非常に高度なIT人材を大量に雇用できる唯一の国です。理工系の大学新卒が、毎年、100万人以上輩出されています。そのうち20万人がIT業界に就職します。加えてインドには、アメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)にならったインド工科大学(IIT)や、国立工科大(NIT)などの、コンピュータ科学の分野では世界でも有数のレベルにある教育機関があります。そこから人材が輩出されてきます。

 インドのIT産業は、かつては米欧先進国の下請けとして発展してきました。その下請けの仕事に取り組むうちに、さまざまなことを学びました。そして、徐々に上流の業務に取り組むようになり、とうとう最近では独自のイノベーションを実現するようになりました。

 また詳しくお話ししますが、そのイノベーションの中には、リープフロッグ(カエル跳び)つまり先進国を追い越していくようなイノベーションもあります。それからインドの得意なリバースイノベーションがあります。つまり、インドには非常に深刻な貧困や環境汚染などの悪条件が多くあるので、そうした問題を前提にして使える技術開発を行います。これは先進国では想像もつかない技術開発となるのです。このような現象が、今さまざまな領域で広がっているそうです。

 さらにインドでは、最近スタートアップ企業が目覚ましく増えています。2010年には480でしたが、2016年には4800となり、2020年には1万を超えるといわれています。これは世界でもトップの水準です。これには、スマートフォンの急速な普及と、ネット経由でさまざまなビジネスの提供が可能になったことが背景にあります。


●インドの人材輩出能力の秘密はその多様な社会における熾烈な競争にあった


 もう一つ、インド関連で注目されることは、世界のIT業界、学界、国際機関などで活...
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