●世界哲学のマップをどう描くか
世界哲学を考え、遂行していくためには「世界哲学史」が必要だというお話をしました。さまざまな哲学の多様な伝統や、その中における哲学者の考え方や書物などを全体として見渡し、生かしていくためには、一種のマッピングが必要だと思うからです。そのマッピングが、世界哲学史と私が呼ぶものです。では、具体的にそれはどんな感じで描けるのだろうかということについて、私のアイデアをお聞かせしたいと思います。
実はこのことは、筑摩(書房)から出した『世界哲学史』シリーズを編集した後の反省から起こりました。これには時代ごとに古い時代から、いわば同時代的にさまざまな分野の研究を入れてきたのですが、きちんと整理すると次のようなことが分かってきました。
古い時代には、さまざまな伝統が横並びで並んでいた。私が編集した古代の時代にはヨーロッパもあれば、メソポタミアもあり、インド、ユダヤ、中国もあるという状況ですが、時代が現代に近くなるにしたがって、だんだんヨーロッパ一辺倒になってくる。例えば、近代のインドはどうだったか、あるいは近代の中国が少し薄くなっているな、ということです。
ですから、世界哲学をやろうとしても、ただ単にその時代に重要なものだけを集めて横並びにすると、今のようなことが起こってしまう。つまり、何か非常に偏ったことが起こってしまうので、そこをきちんと是正した、正しい見方をしなくてはいけないのではないかと考えたときに、世界哲学のいわばマップをどう描くかということに取り組まなくてはいけないと考えたわけです。
●西洋に偏った哲学史
そこで、今ここで少し板書をしながらお示ししたいと思うことがあります。
古代においては大きく3つ、文明という哲学の伝統が生じた。これを(後に)「枢軸の時代」とカール・ヤスパースが呼びました。1つは紀元前7~6世紀ぐらいからいうと、古代のギリシア。ここで起こった哲学は、前にお話ししたように当然エジプトやメソポタミアの遺産を受け継いで、それを発展させるものだったわけです。つまり、それ以前からあったエジプト、メソポタミアを発展させて、ギリシアの文明があった。
これはどういう文化になるかというと、少なくとも中世、「ラテン中世」と呼ばれるキリスト教世界を経て、ルネサンスから近代科学の近代文明になって、現代につな...