●世界哲学をめぐる日本独自のプロジェクト
皆さん、こんにちは。これから「世界哲学」という主題についてお話ししていきたいと思います。世界哲学というタイトルをすでにお聞きの方もいらっしゃるかもしれませんし、初めて聞く方もいらっしゃるかもしれません。これはここ数年、哲学関連の分野では、さまざまな出版物と学会のシンポジウム等を通じて、新しい動きとして始まっているものです。まず初回、世界哲学とはどういうプロジェクトかということについてお話ししていきたいと思います。
世界哲学というタイトルにご関心のある方は、ちくま新書から8巻+別巻の全9巻で2020年に出版された『世界哲学史』というシリーズを目にされているかもしれません。伊藤邦武氏、山内志朗氏、中島隆博氏と私の4人で全巻を編集しました。これがかなり多くの方々に読んでいただき、世界哲学史がひとつのブームになったということがあります。
それに加えて、2024年の1月にはそれを私がまとめ、『世界哲学のすすめ』というタイトルで、同じシリーズの単著でちくま新書から出版しました。他にも、これに関連するさまざまな企画があり、主に日本において、世界哲学というタイトルで、みんな一緒に共同研究を進めているところです。
今、「日本で」と申しましたが、これは実は日本独自のプロジェクトです。2018年あるいは2017年頃より、日本の哲学界が、こういう主題で世界に向けて、われわれのやっていることを発信しようということで始めたプロジェクトです。ということで、今からお話しする世界哲学史、あるいは世界哲学は、以前に行われたさまざまな試みと関係はありますが、一応新たなコンセプトで進めているものだとご理解いただければ幸いです。
「世界哲学」というような名前、あるいはそれに類する名前というのは、実はこれが初めてではなく、歴史の中では何度も出てきました。20世紀の前半~中盤では、ドイツの哲学者カール・ヤスパースが、やはり世界哲学的な視点でさまざまな考察をしています。ヤスパース自身も、例えばブッダや孔子などについての本を出版しました。
日本では20世紀の後半に、ここ東京大学文学部でインド哲学を教えていらした中村元先生などが、まさに自分のインド哲学を中心にしながら、世界哲学の視野で活動を展開されました。
●World Philosophyとしての世界哲学
そのようなこと...