●矛盾をきたす「相互依存と平和の関係」
―― もう1個お聞きしたいのが、よく国際政治の理論ですと、相互依存戦略といいますか、要するに「経済交流が深まっていくと、平和というものが実現しやすくなるのではなかろうか」ということがかねてからいろいろいわれてきましたけれど、このような動きを見ていると必ずしもそうではないように思います(が、いかがでしょうか)。
小原 そうなのです。それが新しいこの動きだと思うのです。国際政治の伝統的な考え方というのは、相互依存があれば戦争を防げるということだったわけです。
例えば、ドイツのアンゲラ・メルケル(元)首相のような、ロシアとの経済相互依存を高めていくことによって安全保障に資するし、ヨーロッパ全体でロシアとのいい関係をつくることによって平和を維持できるといった伝統的な考え方、オーソドックスな考え方だと思います。
実は最近の中国を見ても分かるように、世界が中国に依存するのか、中国が世界に依存するのかということを習近平国家主席がよく言うのですけれど、つまり、自分たちが世界に依存するよりも、世界が自分たちに依存するように、そちらのほうを強くすれば、われわれはそこでカードが持てるということなのです。
つまり、それは相互依存でも、どちらが余計に依存しているかということで、よく「相互依存の非対称性」「非対称な相互依存」ということがいわれるわけですけれど、B国がA国に依存するよりもA国のほうがB国にたくさん依存していれば、A国はいろいろな交渉、関係において弱い立場に立つ。そういう経済的な相互依存の非対称性を利用して、外交的な目標あるいは国家目標を達成しようとする。つまり、その経済的なツールを政治的目標のために使うという時代に今なってきているということです。
川上さんが言われるように、相互依存というものが伝統的に平和を(もたらす)、理想主義のリベラリズムの中では、それが理論的にもそういう効果を強調してきたわけですけれど、必ずしもそうではないのです。
―― そうですね。
小原 むしろ、それを悪用といったらあれだ(語弊があるかもしれません)けれど、それでもって他国に対する脅威といいますか、脅迫をする結果にも今なっているということだと思います。