多数派が多数でなくなるとき
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
悩める多数派…なぜ「多数は少数の集まり」と考えるべきか
多数派が多数でなくなるとき
曽根泰教(慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツ・アカデミー副座長)
多数派の「多数」とはどういうことか。それは丸ごと多数という意味ではなく、少数者(マイノリティ)が糾合したものを指し、政治をするためには少数者をいかに集めるかがとても大事だと曽根氏は言う。通常われわれが使っている制度では多数決を前提としているため、過半数を確保する必要があるが、多数派の与党が提出した法案が必ず可決されるとは限らない。議会での「ねじれ」や多数派の内部分裂などが起こり、政権与党が自分たちの思い通りに全て進められるわけではない。今回の講義では、政治が単純な多数の論理だけでは動かないことを考えてみる。
時間:9分20秒
収録日:2023年12月21日
追加日:2024年2月27日
カテゴリー:
≪全文≫

●少数者をいかに集めるか――多数について考えなければならない理由


 「多数派が多数でなくなるとき」――ちょっと変なタイトルだと思うかもしれませんが、われわれが日頃目にしている言論、あるいは主張は、もっぱらマイノリティの話が多いわけです。

 「多数というのは当たり前で批判してもいいのだ」「多数を議論する時代ではない」というような意識があるのかもしれませんが、私が申し上げたいのは、多数というのは丸ごと多数ではなく、少数者が集まった(少数者が糾合した)ものだということです。政治をするためには、少数者をいかに集めるかというのがとても大事ですということを申し上げたいわけです。

 この多数ということを考えなければならない理由の1つは、多数決が必要とされる制度をわれわれが持っているからです。選挙の場合、必ずしも多数を取らなくても、過半数を取らなくても成り立ちます。ですから、少数で政権を担うことは不可能ではないのですが、通常は、日本の場合ですと首相指名をします。そのとき、議会で過半数を取らないと首相を選ぶことができません。内閣が成立しません。

 自分の党だけで過半数を取れない場合は、連立をするわけです。これが比例代表の国だと、もう一般的です。ですから、「ヨーロッパ政治がいい」という人がかなりいます。しかし、ウエストミンスターのイギリス型モデルではなくて、「ヨーロッパ大陸型の政治がいい」という場合は、連立を覚悟しなければいけません。

 つまり、選挙で多数を取る、過半数以上の議席を持つ党はほとんどありませんから、連立が常態です。そして、連立のそれぞれの駆け引きというのは、スウェーデンとかデンマークのテレビドラマをご覧になると、連立をいかに維持するかということで首相は非常に苦労していることが分かると思います。

 そして、マイノリティを重視するのであれば、少数決でいいではないかと思うかもしれませんが、それは非常に多くの矛盾を含んでいます。実際、運用ができません。例えば、30パーセントと40パーセントの支持者がいて、そこそこ支持があるのだから、それを採用すればいいだろうということになります。ところが、40パーセントの人と30パーセントの人が矛盾した政策を主張していたら、矛盾した政策を採用することは通常できません。

 では、結果としてどうするのかと...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
グローバル環境の変化と日本の課題(1)世界の貿易・投資の構造変化
トランプ大統領を止められるのは?グローバル環境の現在地
石黒憲彦
外交とは何か~不戦不敗の要諦を問う(1)著書『外交とは何か』に込めた思い
外交とは何か…いかに軍事・内政と連動し国益を最大化するか
小原雅博
産業イニシアティブでつくるプラチナ社会(1)「プラチナ社会」構想と2050年問題
5つの産業で「資源自給・人財成長・住民出資」国家を実現
小宮山宏
多数派が多数でなくなるとき
悩める多数派…なぜ「多数は少数の集まり」と考えるべきか
曽根泰教
中国共産党と人権問題(1)中国共産党の思惑と歴史的背景
深刻化する中国の人権問題…中国共産党の思惑と人権の本質
橋爪大三郎
デジタル全体主義を哲学的に考える(1)デジタル全体主義とは何か
20世紀型の全体主義とは違う現代の「デジタル全体主義」
中島隆博

人気の講義ランキングTOP10
徳と仏教の人生論(1)経営者の条件と50年間悩み続けた命題
宇宙の理法――松下幸之助からの命題が50年後に解けた理由
田口佳史
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
エンタテインメントビジネスと人的資本経営(6)評価制度設計と「夢」の重要性
なぜ二本立ての評価制度が必要か…多種多様な人材の評価法
水野道訓
いま夏目漱石の前期三部作を読む(1)夏目漱石を読み直す意味
メンタルが苦しくなったら?…今、夏目漱石を読み直す意味
與那覇潤
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
ケルト神話の基本を知る(1)ケルト地域と3つの神話群
ケルト神話とは…ダーナ神族、アルスター神話、フィアナ神話
鎌田東二
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(2)言葉を理解するプロセスとスキーマ
なぜ子どもは教えられても理解できないのか?鍵はスキーマ
今井むつみ
東大ハチ公物語―人と犬の関係(1)上野英三郎博士とハチ
忠犬ハチ公で哲学する…人と犬の関係から見えてくる道徳論
一ノ瀬正樹
クーデターの条件~台湾を事例に考える(1)クーデターとは何か
台湾でクーデターは起きるのか?想定シナリオとその可能性
上杉勇司
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(1)習近平の歴史的特徴とは?
一強独裁=1人独裁の光と影…「強い中国」への動機と限界
垂秀夫