●まだなされていない制度改革はたくさんある
政治改革がまだ及んでいない部分はたくさんあります。選挙制度改革は、衆議院のみが念頭にありました。衆議院の選挙制度改革は、これによって政権交代を可能にするという意図が制度から読み取れました。
それに対して現状の参議院における選挙制度は、もはや何を目指したものか分からなくなっています。その選挙制度ができた戦後においては、全国的に知名度のある有識者や、労働組合や農業団体のような職能集団の代表などが出てくるようにという意図がありました。今はそれが曖昧になっています。
都道府県議会議員の選挙は、中選挙区制と小選挙区制が混在しています。市町村の選挙では、大選挙区であるため、個人選挙です。そのため、保守系無所属は全員敵同士であるため、自分の支持者だけ抱え込めば良いという状況です。野党はこうした状況に弱いのに対し、自民党はこうした融通無碍な保守系無所属という地方議員に便乗しやすく、後援会が重複しやすいといえます。
●参議院選挙改革の論点は1票の格差
参議院については、事前のご質問にもありましたが、一体どのような理念でできているのでしょうか。われわれは、制度の目的が決まっている場合には、その目的を実現できる制度設計を行うことができます。ところが現状では、目的が分からないのです。
2015年に公職選挙法が改正され、一票の格差を是正するために、人口の少ない県を合区した新たな選挙区が設けられました。それにより、鳥取県と島根県、高知県と徳島県の選挙区が合区されました。
これに対する現在の論調は、合区は好ましくないため、参議院の選挙制度を憲法改正によって改革し、合区を解消しよう、というものです。このような論調は本末転倒です。選挙制度改革問題統括本部・本部長の自民党・細田博之氏は、こうした個別部分を糊塗するのが得意なのですが、こうした目論見は憲法改正の目的として望ましいものではありません。
最高裁がなぜ県をまたいだ合区に関し、政治家が考えるような恐怖感や危機感を持たないのかというと、憲法第92条は日本の地方行政の単位について具体的な記載がないためです。多くの人が、日本の地方行政単位を県だと思い込んでいますが、憲法には県とも市町村、ましてや道州とも書いてありません。だから、今後決めていく必要があるのです。
こうした地方行政単位を憲法改正によって定めるというのであれば、説得的です。しかし、これを定める前に参議院の選挙制度改革を行うことなど不可能です。また、ドイツの連邦参議院のように、選挙を経ずに代表を選出する場合もあります。ドイツの場合、各地方から州の大きさに従って代表が選ばれます。しかし、日本の場合、憲法43条で、「全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する」と明記されているため、こうした制度には、憲法改正をしないと、できません。自民党が行おうとしているのは、県の代表を選出することなので、明確な規定を作らない限り、明らかに憲法に反します。憲法の範囲内でも、できることとできないことがあることを見極めるべきでしょう。
●日本政治では解決できない不可能問題
このスライドでは、今の日本政治では解決できない、不可能問題を挙げました。100パーセント不可能なわけではありませんが、ほぼ不可能です。例えば、社会保障制度の財政をツケ回しにしない方法があるかと問われたら、ないでしょう。どうしてもツケが残ってしまうからです。
また、財政再建とデフレ脱却を同時に達成することも不可能でしょう。安倍政権はできると言っていますが、どちらかにするしかありません。
強力な野党をつくる即時性のある特効薬もありません。さらに、参議院の選挙制度を「投票価値の平等原則」に収めることも不可能です。今の憲法の下で、各県単位に選挙区を置きながら、一票の価値に格差がないようにするのは、現在の議席を前提にする限り、どう頑張ってもできないでしょう。
●官僚の長い拘束時間は、なかなか改革できない
日本政治において、変更が非常に難しい点がいくつかあります。イギリス政治との比較でいえば、まず日本では官僚が国会答弁を準備する点が特徴的です。官僚の拘束時間が非常に長く、質問取りまで行い、答弁作成を朝まで行うというのは、イギリスでは考えられません。
また、日本では大臣の国会拘束時間も非常に長いといえます。さらにいえば、与党の事前審査制もイギリスにはありませんし、政治家の日常活動として、選挙区ごとの案件を個別の省や地方の行政組織に処理させるという、日本の政治家にとっては当た...