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日本政治の問題を対話の重要性から考える

日本政治の疑問(1)対話と質問の重要性

曽根泰教
慶應義塾大学 名誉教授
情報・テキスト
日本政治の本質的な問題を考えるためには対話や質疑という視点が非常に重要であると、政治学者で慶應義塾大学名誉教授の曽根泰教氏は言う。そこで「ソクラテスメソッド」を取り上げ、マイケル・サンデル氏の大人気講義やAIなど4つの注目点を挙げながら、対話の重要性について解説する。(2018年6月13日開催10MTVオピニオン特別講演会「日本政治の問題はどこにあるのか?」より、全6話中第1話)
時間:13:59
収録日:2018/06/13
追加日:2018/09/07
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≪全文≫

●対話を重視した「ソクラテスメソッド」




 慶應義塾大学名誉教授の曽根泰教です。今回は、対話や質疑という視点に非常にこだわりながら、日本の政治の本質的な問題およびそれに付随する制度設計についてお話をしたいと思います。そして、現在、日本政治で起きている現象の多くは、制度設計の副作用ですが、これは予測できたのか、もしくはできなかったのか、ということもお話しします。



 まず対話の重要性について、4点、申し上げます。

1点目はプラトンです。(その師匠である)ソクラテスについては歴史や哲学の教科書でご存じだと思いますが、彼は対話を重視して、問い掛けをずっと行っていました。しかし、本は書いていません。その彼を受け継いだのがプラトンで、今ではそうした問い掛けとそれに答えるような方法は「ソクラテスメソッド」と呼ばれます。プラトンはラファエロ・サンティの絵に描かれていますが、アカデメイアはプラトンによって作られました。

 ということで、1点目の関心は、こうした伝統的な方法を何に、どのようにして生かすことができるのか、というものです。


●1000人規模で授業を行うマイケル・サンデル


 2点目は、アメリカの政治哲学者で倫理学者のマイケル・サンデル氏についてです。サンデル氏は、ハーバード大学での講義を、劇場を兼ねた大教室で行っています。そこより大きい建物はなく、さらに大人数の場合は、卒業式のように校庭の芝生にテントを張って、そこに椅子を並べることになります。

 かつて彼のテレビ番組を見た日本の人々は、「こんな授業があるのか」と驚きました。しかし、こうした試みは1990年に開設されたSFC(慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス)では、開校時から行われていたので、われわれにとっては真新しいものではありませんでした。

 ある時、サンデル氏と私が写った写真と記事が、雑誌『フライデー』に掲載されました。“M・サンデル、「焼き鳥食べて居酒屋でも白熱教室」”という見出しです。記事は、西麻布の飲食店で、サンデル氏と一緒に食事をし、さまざまな話をした時のものです。後日、東京国際フォーラムでサンデル氏は、5000人を相手に特別講義をする予定だったのですが、その時はその講義テーマを何にするかについて、話をしていました。これ以前に六本木ヒルズで行われた特別講義でもそうだったのですが、サンデル氏はいつも直前まで、講義の冒頭でどのような話をするかをよく考えています。

 その六本木ヒルズで行われた講義では、「ダフ屋」を講義冒頭の「つかみ」に用いていました。サンデル氏は、この時の特別講義のチケットが高額で取引されており、ダフ屋によって1万円や2万円、最高で5万円もの価格で取引されていくことに言及しました。サンデル氏は、音楽会など他のイベントのチケットにおけるダフ屋の相場をスタッフに尋ね、そうした情報をもとに「つかみ」を作り、講義をスタートしていきました。

 サンデル氏は、ハーバード大学でも昔から授業が上手でした。私は聴講したことがないのですが、他の先生から「あの先生は授業が上手だから聴いた方がいい、参考になる」と勧められていました。

 日本ではすでにテレビで「白熱教室」が大きく取り上げられていましたが、記事の写真の食事会では、1100人もの学生が授業に出席する中で、どのように授業を進めていくのかについても話をしました。

 一般的にいって、大学で1100人もの学生が出席する授業はありません。ハーバード大学で2番目に規模大きいのは、600人ほどが履修する経済学の授業だそうです。そのため、1100人が出席する授業をソクラテスメソッドに近い方法で行う際には、どのようにレポートを採点し、どうやって発言を記録するのかなどが問題になります。そうしたことを尋ねていたのです。

 サンデル氏によれば、この授業には55人のティーチングアシスタント(TA)がいるそうです。これは、ハーバード大学の政治学部における大学院生1学年分の人数よりも多い人数です。この人数をどこかからかき集めなければ、約1000人の学生が出席する授業など、行うことができないということです。

 一般的に、日本の大学における200人ほどの履修者がいる授業でも、TAは1人か2人です。ハーバードではおよそ20人に1人の割合でTAが付くのが標準のようです。彼の授業の場合は55人も付けてもらっているのです。


●サンデル授業の本質は、選択状況の設定にある


 サンデル氏の講義内容について、私は本人に尋ねたことがあります。六本木ヒルズで行われた講義の後、私は彼に、次のように問い掛けました。

「あなたが講義で行っていることは、路面電車が突っ込んできたときのようなシチュエーションにおいて、複数の選択肢を提示し、...
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