●対話を重視した「ソクラテスメソッド」
慶應義塾大学名誉教授の曽根泰教です。今回は、対話や質疑という視点に非常にこだわりながら、日本の政治の本質的な問題およびそれに付随する制度設計についてお話をしたいと思います。そして、現在、日本政治で起きている現象の多くは、制度設計の副作用ですが、これは予測できたのか、もしくはできなかったのか、ということもお話しします。
まず対話の重要性について、4点、申し上げます。
1点目はプラトンです。(その師匠である)ソクラテスについては歴史や哲学の教科書でご存じだと思いますが、彼は対話を重視して、問い掛けをずっと行っていました。しかし、本は書いていません。その彼を受け継いだのがプラトンで、今ではそうした問い掛けとそれに答えるような方法は「ソクラテスメソッド」と呼ばれます。プラトンはラファエロ・サンティの絵に描かれていますが、アカデメイアはプラトンによって作られました。
ということで、1点目の関心は、こうした伝統的な方法を何に、どのようにして生かすことができるのか、というものです。
●1000人規模で授業を行うマイケル・サンデル
2点目は、アメリカの政治哲学者で倫理学者のマイケル・サンデル氏についてです。サンデル氏は、ハーバード大学での講義を、劇場を兼ねた大教室で行っています。そこより大きい建物はなく、さらに大人数の場合は、卒業式のように校庭の芝生にテントを張って、そこに椅子を並べることになります。
かつて彼のテレビ番組を見た日本の人々は、「こんな授業があるのか」と驚きました。しかし、こうした試みは1990年に開設されたSFC(慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス)では、開校時から行われていたので、われわれにとっては真新しいものではありませんでした。
ある時、サンデル氏と私が写った写真と記事が、雑誌『フライデー』に掲載されました。“M・サンデル、「焼き鳥食べて居酒屋でも白熱教室」”という見出しです。記事は、西麻布の飲食店で、サンデル氏と一緒に食事をし、さまざまな話をした時のものです。後日、東京国際フォーラムでサンデル氏は、5000人を相手に特別講義をする予定だったのですが、その時はその講義テーマを何にするかについて、話をしていました。これ以前に六本木ヒルズで...