「国会の質問時間の変更」から考える日本政治の本質的問題
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
国会の質問時間配分は「与党のあり方」を考える問題
「国会の質問時間の変更」から考える日本政治の本質的問題
曽根泰教(慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツ・アカデミー副座長)
2017年11月14日、国会の質問時間を「与党1、野党2」とし、この配分比率を「先例としない」ことで合意がなされた。この問題には「時間の長さ」だけでなく、本質的問題が潜んでいると、政治学者で慶應義塾大学大学院教授の曽根泰教氏は指摘する。いったいどういうことなのだろうか。
時間:10分55秒
収録日:2017年12月7日
追加日:2017年12月31日
カテゴリー:
≪全文≫

●見直し要求は議院内閣制への無理解から!?


 国会の質問事間の変更についてお話をします。ニュースでも伝えられたように、第195回国会において、野党の質問時間を減らし、与党側の質問時間を増やすという変更が行われました。

 これはもっぱら質問の「時間」の問題として扱われていますが、本質は違います。もっと大きいところ、すなわち「国会とは何か」、「与党と議会の関係とは何か」という問題につながってくるのです。

 少し背景を説明しておきますと、要望を出したのは自民党議員です。NPO法人などが行う議会の活動評価において、野党議員は国会での質問が多いため、活動していると評価が高い。与党議員は質問が少ないので、あまり活動していないと評価が低くなる。だから、特に2回生・3回生あたりの与党議員にはもっと質問をさせてほしい、ということでした。

 これは、NPO法人や新聞社などがしばしばアメリカ型の尺度で日本の議会、議員の活動を議会質問によって測定しようとするためですが、日本の制度を無視したことなので、私はかなり疑問を持ち、反発していたことがあります。

 日本は議院内閣制の下、与党の事前審査があります。しかも与党(自民党)議員には総務会決定で党議拘束がかかってきます。そうしたことから、アメリカ型の議会を前提とした測定方法には無理があると申し上げてきたのです。


●議会の場を本番にするのなら通る「時間増」問題


 しかしながら、今日はその問題ではなく、まさしく「与党とは何か」「与党の質問とは何か」という、議会そのものに関わる問題をお話ししたいと思います。

 かつて自民党は野党時代に、質問時間の割り増しを要求して、野党と与党の質問時間を6対4から8対2に変更させた過去の経歴もあります。こうした経緯があることから、「自分勝手だ」「与党で議席を多く占めた途端に与党への質問時間増を要求するとは勝手だ」という議論も、もちろんあります。しかし、本質は何かということで、今回は絞って申し上げることにします。

 もしも与党に事前審査と党議拘束がないのであれば、与党議員が質問時間を増やせという主張も筋が通ります。しかし、現状では、ほとんどの議論は自民党内部で決めており、議員には党議拘束がかかっています。ですから、国会で議論をした後、それぞれの判断で採決をするようなことは、まずありません。つまり、一般の国...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
クーデターの条件~台湾を事例に考える(1)クーデターとは何か
台湾でクーデターは起きるのか?想定シナリオとその可能性
上杉勇司
多数派が多数でなくなるとき
悩める多数派…なぜ「多数は少数の集まり」と考えるべきか
曽根泰教
中国共産党と人権問題(1)中国共産党の思惑と歴史的背景
深刻化する中国の人権問題…中国共産党の思惑と人権の本質
橋爪大三郎
台湾有事を考える(1)中国の核心的利益と太平洋覇権構想
習近平政権の野望とそのカギを握る台湾の地理的条件
島田晴雄
外交とは何か~不戦不敗の要諦を問う(1)著書『外交とは何か』に込めた思い
外交とは何か…いかに軍事・内政と連動し国益を最大化するか
小原雅博
日本人が知らないアメリカ政治のしくみ(1)アメリカの大統領権限
権限の少ないアメリカ大統領は政治をどう動かしているのか
曽根泰教

人気の講義ランキングTOP10
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(3)未解決のユダヤ問題
「白人vsユダヤ人」という未解決問題とトランプ政権の行方
東秀敏
徳と仏教の人生論(5)陰陽と東洋思想を知ることの意味
『孟子』に学ぶ、リーダーが過酷な境遇に追い込まれる意味
田口佳史
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち
なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る
今井むつみ
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
人生100年時代の「ライフシフト概論」(3)キャリアの危機〈下〉
40代前半に訪れる「中年の危機」、鍵は「人生の成長戦略」
徳岡晃一郎
エンタテインメントビジネスと人的資本経営(1)ソニー流の多角化経営の真髄
ソニー流「多角化経営」と「人的資本経営」の成功法とは?
水野道訓
編集部ラジオ2025(26)ソニー流!多角化経営と人材論
ソニー流「人材の活かし方」「多角化経営の秘密」を学ぶ
テンミニッツ・アカデミー編集部
いま夏目漱石の前期三部作を読む(1)夏目漱石を読み直す意味
メンタルが苦しくなったら?…今、夏目漱石を読み直す意味
與那覇潤
世界のジョーク集で考える笑いの手法と精神(1)体制を笑うジョークと諷刺の精神
ジョークの精神…なぜ人は厳しいときほど笑いを磨くのか
早坂隆