●政策の実行までにはいくつもの政治プロセスが存在する
曽根 上の図を見てください。これは私がよく使っている図ですが、いい政策があったら実行されて当たり前、そう思っている人がいます。
―― それこそ、これまでシリーズ内で先生がおっしゃった「マニフェストを渡せば、それでできるだろう」というようなことですね。
曽根 そうです。あるいは、経済学者の中には、「俺が考えた案は優れているから、この税制案をやるといい」とか「こういう経済政策を打つべきだ」と言う人がいます。だけど、それはプロセスを経て、最後は国会を通過しなければいけません。しかも、日本の場合、国会に通す前に閣議決定がある。閣議決定にかける前に、各省庁でそれこそ合議(あいぎ)をして揉まなければいけない。また、その原案は審議会で検討して、「そこが必要ですよ」とならなければいけない。さらにいえば、そこに自民党が絡んできて、与党が絡んできて、与党審査をやる。このプロセスを全て経ないと、国会には進めません。
だから、ここまでシリーズ内で議論してきたのは、通常の三権分立論では国会に法案が提出されたところからが立法なのですね。実はその前の段階が非常に重要ですし、前の段階でどうやって通すのかが大事になるのです。
―― 先ほど自民党のお話がありましたけど、それこそ政調部会を通すとか、ですね。
曽根 はい。部会が通っても、総務会で否決されることもあります。自民党の総務会というのは、党則からいくと、多数決で決めると書いてある。でも、実際は満場一致で運用されているのです。郵政改革の時は、この満場一致で運用されているところを多数決で通してしまったから、「けしからん」となって自民党を離脱する人が結構いたのです。
ですから、政治のプロセスというものを考えないといけない。いろいろなところにチェックポイントがあるのです。われわれはよく「ヴェートポイント(veto point)」と言うのですが、拒否権ポイントがいっぱいあって、いろいろなところでつぶされるわけです。
●事務次官会議は官僚主導の象徴ではない
曽根 1つ象徴的な例として挙げると、上の図に「事務次官会議」と薄く書いてあります。少し昔の話になりますが、事務次官会議は民主党時代になくなるのです。事務次官会議が官僚主導の象徴だということでそうしたのですが、これは民主党の勘違いだと思います。
―― そういう議論がございました。
曽根 これは間違いだと思います。事務次官会議を通るというのは、役所相互の調整が済んだということでしかなく、だから閣議決定のほうへ持っていけるということなのです。役所での調整というのは、どの政権どの政党だろうとやらざるを得ないのです、日本の場合は。
―― どこかがやらなければいけないわけですね。
曽根 やらなければいけません。だから、この会議をなくしたら官僚主導がなくなるかといったら、そんなことはないわけです。官僚に仕事をしてもらうためには、それぞれの省に内閣あるいは大臣が指示をする。だけど、日本の場合にはそれだけではなくて、他の省との調整が相当必要なのです。事務次官会議は、そこをどうするかというところなのです。
実は事務次官会議は、自民党政権になって復活します。ただ、復活はするのですが、今でもオフィシャルな会ではありません。つまり、事前決定機関ではないのです。このあたりが微妙なところで、だから上の図では薄くしました。事務次官会議は、オフィシャルな役割としては非常に薄いけれども、実質としてものごとを動かしているということです。このあたりが非常に厄介なところなのです。
―― そうですね。
曽根 だけど、これは、「事務次官会議をなくせば官僚主導がなくなるという話じゃないですよ」という、その1つの象徴なのです。
―― 確かに、どういったプロセスで流れているかという全体を見ないといけないですね。事前審査なのかどうか、とか。本番が国会の後に来るにしても、全体を見ないとその流れが分からなくなってしまいます。
●党内の事前審査と国会との関係が重要
曽根 だから、国会をどう通すのか。どこの国でも、国会で法案をどう通すのかというのは結構大変なことだし、日本の場合には、イギリス政治では見ることができないような与党審査という非常に厄介なものがあるわけですから。
―― これを民主党はやめようと思ったけれども、復活したということですね。
曽根 はい。民主党は、野党時代に部門会議というものをやっていたわけですが、ここをスキップしようとしました。ただ、実は二重の意味で、部門会議をやっているほうが良かったとなるわけです。つまり、通らなかったけれども議員立法をしている頃のほうが充実していた、昔は良かったとい...