『マカーマート』から読む政治家の運
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幸運の火打石――闇夜に不案内な土地を旅する者への忠告
『マカーマート』から読む政治家の運(4)幸運の火打石
山内昌之(東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授)
時の運は決して持続的には働かない。運よく地位を上げた人も、次の瞬間は分からない。悲運に見舞われ挫折したリーダーをサポートすることこそ、人にとって「あらまほしき」ことなのだ。運が天から降ってくるのをただ待つよりも、自ら創意工夫した方法を「幸運の火打石」とするのはさらによいことだ。暗き闇夜に不案内な土地を旅する者へのメッセージとして、『マカーマート』は語っているのである。(全4話中第4話)
時間:12分42秒
収録日:2024年10月2日
追加日:2024年10月26日
≪全文≫

●運から人間への警告


 皆さん、こんにちは。

 運というものはときに、私にとって幸いに作用して、私に成功をもたらすかもしれません。しかし次の瞬間には、運に恵まれてきた人間が不運に付きまとわれ、挫折や失敗に見舞われるかもしれません。このように運というものは持続的ではない反面、不運というものも持続的でないということがあるわけです。

 今回の自民党の総裁選挙は、まさに4回挫折した政治家が5回目の挑戦によって勝利を収めた。その反面、勝利をほぼ手中に収めていた候補者が、最後の瞬間に手元から勝利が転げ落ちていくのを経験した。そういう劇的な結果に終わったことを、アラブ中世の『マカーマート』を素材にして少し考えてみたのが、前回までのお話でした。

 さて、『マカーマート』はこのように言っています。

 「運などというものは人を豊かにするどころかmaala(顔を背けてしまう)もの、aamaala(望み)をひっくり返してしまうもの!それは(恵みを)与えると言うよりwaSaala(踏みにじり)、awSaala(五体)を傷つけるだけなのだ!・・・・・・それは人を健康にさせるどころか、ただdaa’(病気)を患わせ、それでawiddaa’(友達)を心配させるだけなのだ!」

 これは、運といったものに過剰に頼る、あるいはそういうものに対する信頼にあまりに重きを置くことに対しての警告といってもよろしいでしょう。

 他方、運がどのように転んでも、あるいは運というものが自分に味方せず苦杯をなめたとしても、それをものともせず、自分や仲間が新たな変化や状況に対応できるような者こそが、実はリーダーの名にふさわしい(のです)。政治の世界において(も)、まさに指導者として持続的な評価を受けることにつながるのではないかと思われます。


●「不運」の別名は「怠惰」?


 実際、『マカーマート』はこういうふうに言っています。

 「どんな時であれ状況に応じて衣換える我
 運不運の事態の変化に応ずる衣を
 同席する者誰にもふさわしきもの提供す」

 ということで、こうした悲運のあまり、リーダーが権力の座から落ちたとしても、苦境にあえぐリーダーから離れずに、それを支えようとする人こそが、人間としても政治家としても「あらまほしき」者、まさにそうであってほしい者ということです。

 これは、例えば第一次安倍政権が失敗し挫折して、安倍総理が野に...

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