●選挙で勝つためには地道なコミュニケーションが重要
曽根 もう1つ、小選挙区で勝つために、個別訪問というか、選挙期間中の個別訪問はなかなか制約があって難しいのですが、自民党のある議員が言うには1日600軒歩くというのです。
―― 600軒? それは、営業マンとしても相当大変ですね。1日ですからね。
曽根 3人1組になって、まず前振りの秘書が行って、「今、代議士が来ます」と言う。そのお宅から有権者が出てきたところで代議士が挨拶をする。そこで少し移動したところで3人目に秘書が後援会や政策についての紙を配る。ということで、600軒ほど歩く。こんな努力を野党はしていますか、と。
もちろんこれは一例です。ただ、そのビジネスモデルとして、駅前で演説すれば票が入ると思い込んでいる人が大勢います。あれも悪くはない。悪くはないのですが、それだけで票にはつながりません。そこで、どうコミュニケーションを取っていくのか。1軒ずつ歩くのか、あるいはミニ集会なのか、いろいろなタイプがあります。やはり接触することが必要なのです。
●政治家の仕事は生の声を政策につなげること
曽根 ただ接触というと、「それではどぶ板(選挙)だ。そんなことは私はやりたくない」という人もいます。だから、生の声を聞いて何をするか、ここが重要なのです。問題は、日本の議員は、生の声を聞いて、生の声を行政につなぐというのが、政治家の仕事だと思い込んでいるところです。
地方議員などは特にそうです。陳情を受けたら、役所に連絡する。秘書が電話をかける。個別案件を個別処理するというのが、政治家の仕事だと思い込んでいる。これは間違いです。個別案件、つまり個別の貧困の問題、個別の待機児童の問題を政策的に解決する。条例をつくる、法案をつくる、というところに持っていかないといけないのです。
―― システムを変える、仕組みを変える、ということですね。
曽根 だから、政治家が生の声を政策まで持っていく能力を身に付ける必要があるのです。そこは与野党ともにまだまだです。つまり、個別案件を個別に連絡して、役所を突っついて動かす、これが政治だと思い込んでいるところがあるのです。有権者もそう思っているのですが。
では、それをやるとどういうことになるかというと、役所の窓口で断られたことを、政治家を通じてなんとかしようとする。これはどう考えても、無理筋です。だから、無理を通すために政治家を使うという、ちょっと目端の利く有権者はそういうことをやる。そういうことをボスに近い人がやる。でも、政治家のやるべきことは、それではないのですよ、というのがまず1つですね。
●政権交代を起こすためのマーケティングが必要となる
曽根 それから、選挙ごとに1000万票ぐらいがこちらからあちらへ動くということは分かりました。そこには、例えば期待感。民主党政権の時には、「政権交代」という、たった一言でよかったわけです。政権交代があれば、何かいいことがあるだろう、と。だから、政権交代というだけで、特に動かなくてもよかったわけです。
だけど、あれもこれもといろいろ、やり過ぎてしまったのです。政権交代といえば、棚卸がある。それから、それまでの陣容がかなり変わってくる。55年体制時代は、基本的に自民党長期政権全体として役所のシステムができていました。政権が代わると、システム的に役人の行動も変わるわけです。じっとしていても変わるのです。だから、交代というモデルに転換する、そちらのほうが重要なのですね。
また、選挙では、例えば一気に風が吹くのかどうかということもありますが、風ばかり期待していてはダメで、もっとデータベース・マーケティングをしてみたらと思います。3000万票というのは、誰が入れているのか。名簿はありますか、名前は分かりますか、と。
―― そこに至るまでのベースが2000万票だとすると、どうやってそこに届くのかということですね。
曽根 自民党は個人の後援会のリストを持っているけれども、民主党はそういったリストを持っているのですか、と。そういう意味でいうと、データベース・マーケティングができていないのです。2000万票逃げたとしても、誰が逃げたのか分からない。
●地上戦・空中戦・サイバー戦を統合的にやらないと勝ち残れない時代
曽根 それから、インターネット(以下ネット)を使った選挙もそうです。実はネット選挙が解禁になった後に調べてみると、自民党や共産党の方が有効に使っています。効果があるのですね。ただ、ネットで一気に政治が変わるかという、そうでもありませんでした。ネットが解禁になったのは、前々回(2013年)の参議院選挙の時です。一気に変わると期待していた人がいます。しかし、私はあの時にグーグル、インテージ、ブレインパッドと共同研究を...