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日本の政権交代は参院選から崩れて進むという形だった

政治学講座~選挙をどう見るべきか(3)得票数の変遷

曽根泰教
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
日本の選挙を得票数の変遷で見ていくと、いろいろなことが分かる。2005年の郵政選挙はどのような意味を持っていたのか。また、本来は政権選択と直接関わりのない参議院選挙が政権にどのような影響を与えてきたのか。そして、衆参のねじれに関してはどのように考えるべきなのか。(全9話中第3話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:11:52
収録日:2019/08/23
追加日:2020/02/03
カテゴリー:
≪全文≫

●マニフェストの導入と郵政選挙


―― 実際の選挙において具体的にどのくらい得票数があったのかを見ていくと、2000万票という話の一つの妥当性が見えてくると思います。選挙制度が新しくなった1996年以降の衆議院議員選挙を見ると、小泉純一郎さんが行った2005年の郵政選挙より一つ前の選挙が、2003年11月にありました。この時にどういう得票数だったかというと、自民党は2600万票で、当時菅直人さんが代表だった民主党は2100万票ほどでした。

曽根 この時すでに、政権交代のきっかけはつかめているわけです。2003年がどういう年かといえば、マニフェストが導入された年です。マニフェストは、民主党のものと思われているのですが、実は小泉純一郎さんがこれをうまく利用しています。だから、総裁選、内閣改造、それから総選挙を同じマニフェストで貫くこと、これに小泉さんは気が付いたわけです。それまではマニフェストはあまり好きじゃなかったのですが、これを「政権公約」という名称でやろうということで、この時点で小泉さんは気が付いているのです。

 そして、そのことが、小泉さんの一つの力の源泉になったのですね。それを表しているのが2003年の選挙です。2005年になると郵政選挙があり、これは圧勝でした。

―― これは印象的で、今も記憶に残っている方は多いと思いますけれども、郵政改革が否決され、急に衆議院を解散してしまいました。

曽根 参議院で否決されたのに、なぜ衆議院の解散なのか。これは非常に分かりにくいと、当時も言われました。あえてへ理屈を立てると、3分の2の議席があれば再可決をすることができる、それだけの議席を衆議院で確保しようという意味の選挙だとすると、それはあり得ることかなと思います。

 この時、郵政問題で自民党の人たちの中に離脱が出るわけですね。そこに刺客を立てる。この手法は実は、小選挙区において政党が採るべき手法の一つなのです。だから、非常に真っ当なことをやったわけです。小泉さんは、実は小選挙区比例代表並立制にずっと反対し続けてきました。その小泉さんが、行政改革と政治改革の両方をうまく使うのです。どういうことかというと、小選挙区比例代表並立制という選挙制度は何を狙っているか、どうやったら勝てるか、そのための戦略を考えて大勝利をしたということです。つまり、そのことに途中で気が付いてしまうわけですね。

―― 小選挙区ならこうすればいいということですね。

曽根 そうです。こうすれば勝てるという、まさしく権力闘争というところに気が付いたのです。そして、その次の選挙が、実は政権交代となる選挙なのです。


●日本の政権交代は、参院選から崩して政権を取るという形だった


―― そうですね。その話に移る前に得票数を見ておきたいと思います。郵政選挙ですが、小泉さん率いる自民党が小選挙区で約3200万票取っています。岡田克也さんが率いる民主党が約2400万票取っています。この時、自民党は大勝ちしたとはいえ、民主党も2400万票取っているのですね。

曽根 そう、取っているのです。実はこの時の選挙は、政権交代へのホップ・ステップ・ジャンプのホップの段階です。ステップが2007年の参議院選挙です。実は2007年の参議院選挙は安倍晋三さんが首相の時ですが、安倍さんが敗北するわけです。

 実は日本の政権交代は、参議院選挙から崩して政権を取るという形でした。衆議院の総選挙で野党が過半数の議席を獲得するところまで進むには、まず参議院で与党側の議席を過半数割れさせることです。そうなると何が起こるかというと、ねじれ国会になるわけです。すると、法案が通らなくなります。つまり、そうして与党側の権力を削ぐということです。この作戦が有効であるということに、多くの人が気付きました。

―― これは1993年の衆議院選挙の前に行われた1989年の参議院選挙で、消費税の問題があって野党側が議席を伸ばしました。

曽根 それと当時、宇野宗佑首相の「指3本」という問題がありました。

―― 女性問題が発覚したという話ですね。

曽根 はい。それであの時、土井たか子さん(当時日本社会党委員長)が「山が動いた」と言って、社会党は勝つのですが、1回限りです。それが持続しない。けれども、日本では参議院は意外と重要な選挙で、政権に関わることがあるのです。

 もう一つ、政権に関わったのは98年の参議院選挙です。橋本龍太郎さんが選挙期間中に、「恒久的減税」とか「恒久減税」という曖昧なことをいうわけです。これが選挙に非常に大きく関係しました。実はこの時の敗北によって橋本さんは政権から退くことになります。政権選択の選挙ではないのに、なぜ参議院選挙で政権が代わるのか。これは...
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